診療・治療
2022/7/15(金)
妊活中にコーヒーはダメという話を聞かれた事はありますでしょうか?
ネットを調べると色々な情報があって書いてあることは結構バラバラだったりします。
結局何を信じたらいいのか分からなくなってしまいますが、そんな時はどんな根拠を持って書かれた文章であるかを考えてみるのがお勧めです。
ネットではどうしても個人的な感想や体験談、あるいは商品の宣伝が多くなりがちですので、それが科学的に検証された結果かどうか判断する必要があります。
前置きが長くなりましたが、本日は妊娠とコーヒーについて科学的に調査した論文を紹介したいと思います。
Caffeine Intake and Delayed Conception: A European Multicenter Study on Infertility and Subfecundity (カフェイン摂取による妊娠の遅れ:ヨーロッパ不妊施設による他施設研究)
これはスペイン、デンマーク、イタリア、フランスなど多国籍の研究者達がデータを解析し、1997年にAmerican Journal of Epidemiology誌に報告した論文です。
20年以上前のデータにはなりますが、未だに引用され続けている論文ですのでご紹介したいと思います。
この研究では25~44歳の女性3187人を調査して妊活を始めてから自然妊娠するまでの期間をコーヒー摂取量と共に調べています。
ちなみに、この調査には紅茶やコーラなどカフェインを含む他の飲料も同様に調査されていますが、コーヒーが圧倒的に多いため代表してコーヒーと表記されています。体外受精などのデータは含まれていません。
上の表はコーヒーの摂取量と妊娠までの期間を調査した結果になります。
これを見ると、全くコーヒーを飲まない群で妊娠まで6.5カ月かかったのに対して1日5杯以上コーヒーを飲む群では8.2カ月と1.7カ月ほど延長しているのが分かります。
さらにコーヒーの種類やカップの大きさなどから推定したカフェイン含有量と妊娠までの期間を調べたのが下段の結果になります。
こちらでは、さらに顕著に妊娠までの期間との相関が認められており、1日501mg以上摂取する群では8.9カ月と摂取しない群に比べて2.4カ月延長しているという結果でした。
続いて、妊活を始めてからの期間ごとに妊娠していない方の割合を時系列でまとめたグラフが示されています。
これを見ると、時間の経過とともに妊娠していない方の割合は減っていますが、カフェイン摂取量が1日500mg以上の群では、妊娠していない方の割合がやや高い事がわかります。一方300~500mgの群では、300mg以下の群とほとんど差がなさそうです。
ということで結論としては、
でした。とはいえ、カフェイン500mgといったらコーヒー6,7杯ほどです。
日本人でそこまでコーヒーを飲まれている方はあまりいないのではないでしょうか。
ということで、そこまで神経質にならなくても良さそうでもありますが、客観的なデータとして参考にしていただければと思います。
ところで、カフェインは妊娠前よりもむしろ妊娠初期に影響があるという話もあります。
次はカフェインが妊娠初期に与える影響についてお話ししたいと思います。
実はカフェインの影響は妊娠してからの方が大きいと言われています。
妊娠初期にコーヒーが与える影響を調査した研究をご紹介いたします。
CAFFEINE INTAKE AND THE RISK OF FIRST-TRIMESTER SPONTANEOUS ABORTION
(カフェイン摂取と妊娠初期における自然流産のリスク)
これはスウェーデンのCnatttingius氏らが2005年にNew England Journal of Medicineに発表した論文です。
この論文ではスウェーデンで6~12週の間に流産を経験した562人の女性と、出産まで至った953人の女性にアンケート調査を行って、カフェインの摂取量との関係を調査しています。
カフェインの摂取量はコーヒー、紅茶、コーラ、ココア、チョコレートなどの摂取量から求めていますが、76%がコーヒーで23%が紅茶、その他はわずか1%でした。
結果を見てみましょう。
上の表は1日のカフェイン摂取量と自然流産の関係を調べたものです。カフェイン摂取が1日100mg以下の方を基準としてオッズ比(起こりやすさの比)を求める事で評価しています。
喫煙者においてはなぜかあまり差を認めていませんが、非喫煙者においては、カフェイン摂取量が増える程に流産のリスクが高まっている事が分かります。
500mg以上のカフェイン摂取では、流産率が2.2倍(主にコーヒーで摂取している場合は4.1倍)と増えており、明らかにリスクが高まることが分かります。
続いて上のグラフは、つわりとカフェイン摂取量をみたグラフになります。
妊娠4週頃からつわりが出現し、7,8週頃にピークになるのが分かりますが、興味深いことに流産しなかった群の方がつわりがひどく、それに伴ってカフェイン摂取量が急激に下がっています。一方で流産された方の群ではつわりはそれ程ひどくなく、カフェイン摂取量もそれ程落ちていないという結果でした。
最後に、流産された方の胎児絨毛染色体を調べて、流産が胎児側の原因だったのか母体側の原因だったのか調べています。
上の表を見ると、胎児染色体の異常率、正常率はカフェインの量と相関していない事が分かります。
つまり、流産が増えたのは胎児側の問題ではなく、母体側にカフェインが及ぼした影響によるものだろうと推察されています。
ということで結論としては、
という事でした。
ちなみに喫煙者においては、カフェイン摂取と流産リスクの相関を認めていませんでしたが、これは喫煙のリスクの方が高い為カフェイン摂取リスクを隠していると考えられています。
ちなみにコーヒー1杯には約80mgのカフェインが含まれています。コーヒー好きな方には酷ですが、妊娠初期は1日1杯までにされることをお勧めします。
コーヒーの飲みすぎは妊娠に良くないというお話をしましたが、
そういえば精子について記事を載せていなかった事に気づき、近日中にブログにアップする事をお約束したので本日紹介させていただきます。
本日の内容はこちらの論文を参照しています。
Coffee and caffeine intake and male infertility: a systematic review
(コーヒーとカフェイン摂取が男性不妊に与える影響:システマティックレビュー)
この論文はイタリアのRicci氏らが2017年のNutrition journal誌に発表した研究です。
こちらはシステマティックレビューですので、いくつかの論文を集めて総合的な判断を行っています。
どういうことかと言いますと、コーヒーと男性不妊というキーワードから文献検索システムでひっかかってきた論文から、
重複したものや、全文ないもの、英語でないものなどを除いて、男性不妊に関係するものだけを抽出して調べています。
この様な方法をとる事によって、偏った研究だけを取り上げるリスクを軽減させています。
この様な過程を経て、最終的に28論文19967名の男性が含まれたレビューになっており、
主に精液所見、精子のDNA損傷、妊娠率を調べています。
さて、その結果について見てみましょう。
まずカフェインの摂取と精液所見の関係を見てみましょう。
上の方がコーヒーで下二つがコーラで調べています。
太字になっているところが、統計学的に差があった部分になりますが、コーヒーはほとんどの報告で影響がない事が分かります。
これ以外にも4つほど報告がありましたが、すべての項目で有意差なしでした。
ただ、2つだけコーヒーの摂取が運動率を上げるという報告がありました。
一方、コーラでは多く摂取するほど精子数を下げるという結果が見て取れます。ただコーヒーでこのような変化が報告されていないところを見ると、カフェインの影響というよりもコーラに含まれる砂糖やコーラと一緒に食べるジャンクフード類が問題となっているのではないかと思われます。
続いて、DNAの損傷について調べています。
これも報告によって結果はまちまちですが、コーヒーの摂取により精子の染色体異数性がやや増加したという研究があり、喫煙や飲酒といった要素で補正しても影響はあると報告されています。
DNA損傷に関してはコーヒーと関係ないという報告とコーヒーを毎日飲んでいた方がDNA損傷を認めたという報告が混在していますが、コーヒーを飲んでいた方が良かったという報告は無いようです。
最後に決められた期間内での妊娠率ですが、コーヒーを1日3-7杯飲む人は、3杯以下の人に比べて0.8倍、8杯以上飲む人は0.6倍であったという報告や3杯以上飲む人は0.85倍であったという報告があり、男性のコーヒーの飲みすぎは妊娠までの期間を延長させるという報告が多くなっています。
ということで結論としては、
という事でした。
とはいえ研究によってばらつきがあること、影響あると言われる量がかなり多い量からであることなどから、それ程気にしなくても良いのではないかと思います。
ということで、アルコールと同様に、
くらいの感じで考えていただければいいのではないでしょうか。
(文責:医師部門 江夏徳寿、理事長 塩谷雅英)