診療・治療
2022/7/15(金)
今回から漢方薬についての新しいシリーズが始まります。
漢方薬という言葉はみなさんなじみがあるのではと思います。
実際に服用されている方も多いのではないでしょうか。
このシリーズでは、漢方薬ってなに?というところから、成分や効き目などについてお話していきたいと思います。
東洋医学という言葉をよく耳にすると思います。
現在日本には、薬を使う漢方医学、鍼や灸を使って経穴などを刺激する鍼灸医学があり、この2つをまとめて東洋医学と呼んでいます。
つまり漢方医学に基づいて生み出されたのが漢方薬ということです。
漢方薬は、もとは中国から伝わってきており、のちに、日本でもこの国の気候や風土、日本人の体質に合わせて調整されてきています。
(例えば、日本は夏は湿気が多く、冬は乾燥するなど、中国とはやはり気候などが違っています。)
漢方薬の中身に注目しますと、漢方薬は生薬がいくつか組み合わされてできています。
では生薬とはどのようなものなのでしょう。
生薬とは、自然界に育つ植物や鉱物、また動物などのうち、薬効を持ったもので、そこから有効成分だけを取り出したりはせず、それを一つの薬として使えるもののことです。
もちろん安全に使えるようにするために手を加えます。
それでは、生薬にはいったいどのようなものがあるのでしょうか。
そうなんです、実は私たちは日常的に生薬を摂っているんですよね。
しょうがや、シナモン、ハッカは代表的な生薬です。
他にも、中華料理に入っている八角や、山芋、シソの葉なども生薬です。
これらの生薬は実際に漢方薬にも入っています。
生薬は、体を温めたり、冷ましたり、元気にしたり、また落ち着かせたり
と様々な性質を持っています。
次に、普段私たちが摂っている生薬がどんな性質を持っているのか見てみたいと思います。
突然ですがみなさん、イライラした時にチョコミントやフリスクをなぜか無性に食べたくなることはありませんか
ミント好きの方にとっては、あの爽快感とヒンヤリ感がたまりませんよね
ミントは、東洋医学ではハッカ(薄荷)として漢方に用いられています
今回はそのハッカについて見ていきましょう
ちなみに、ミントとは、シソ科のハッカ属の総称です
ニホンハッカ(ジャパニーズミント)や、西洋ハッカ(ペパーミント)、その他のミントもシソ科のハッカ属です
ミントはこれらをまとめた呼び方です
あの香りとヒンヤリ感の正体はメントールですね
ミントの葉の部分にはメントールが多く含まれているので、料理やお菓子、湿布などにも使われています
最近はチョコミン党という言葉があるくらい、ミントファンの間では密かに熱いようですが、一体なぜでしょうか
(食べすぎには気をつけましょう(笑))
少し時代を観察してみますと、毎日戦いとも言える忙しい日々を過ごす中で、緊張したり、イライラしたり、色んなストレスがかかってきていますね
そんな状態から少しだけ解放してくれるのがハッカですね
では、ハッカがストレスに対してどんな風にお役立ちしているのか、東洋医学的に見てみましょう
ハッカは、いくつかの良い働きがありますが、その中の一つに疏肝解鬱(そかんげうつ)という作用があります
疏肝解鬱とは、簡単に言うと、溜まったストレスを発散してリフレッシュさせることです
疏肝の”疏”は、”通す”という意味があります
また、疏肝の”肝“(かん)は、東洋医学的な考え方では、「怒り」「イライラ」を制御するという役割があります
少し掘り下げてみましょう。
東洋医学では、よく「五行」という考え方を使います
「五行」(ごぎょう)とは、自然界の色んなものごとを”木”火”土”金”水”の5つで表す方法です
例えば、私たちの体の中を5つで表すと「五臓」といい”肝”心”脾”肺”腎” となります
そして、感情を5つで表したものは「五志」と言い「五臓」と結びつけると例えば次のようになります
肝は怒りを、心は喜びを、脾は思い悩むことを、肺は悲しみを、腎は恐れをそれぞれコントロールしています
「肝」は、もっとも難しいとも言える、「怒り」「イライラ」のコントローラーを操作しているんです
つまり疏肝解鬱とは、”肝”をなだめて、溜まった気(ストレス)をスッと通して、うつうつした気分を解くということですね
実際にミントを口にすると、この香りが好きな方は、思わず深呼吸をしているかも知れません
深呼吸をすることも、張っていた気を緩めて、心も体もリラックスした状態にしてくれますね
次に、ハッカのその他の働きと、どんな漢方に含まれているのかについて、みていきたいと思います
ハッカには、疏肝解欝(そかんげうつ)のほかに、
疏散風熱(そさんふうねつ)(風や熱を発散させる←初期の、かぜや鼻の炎症を退治する)
清頭目(せいとうもく)(頭と目をスッキリさせる)
利咽喉(りいんこう)(のどの状態を整える)
透疹止痒(とうしんしよう)(かゆみを抑えようとする)
などの働きがあります
ハッカのど飴をなめた時の感覚ですね
また、ハッカは、辛涼解表(しんりょうげひょう)薬というカテゴリーに分類することができます。
辛涼解表とは、味は辛くて、涼しく感じさせ、少し発汗させながら体の表面にある熱を逃してクールダウンさせてくれます。
ハッカが含まれる漢方は、
加味逍遙散(かみしょうようさん)
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)
滋陰至宝湯(じいんしほうとう)
川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)
などです。
女性に関係のある漢方ですと、加味逍遙散ですね
加味逍遙散は”気逆”(きぎゃく)や”肝気鬱結”(かんきうっけつ)に良いとされています。
“気逆”とは、猫が怒った時に毛が逆立つように、気持ちが下から上に逆立っているような状態のことです。
“肝気鬱結”とは、気持ちがギュッと結ばれてほどけない状態です。つまり、イライラしているときです。
女性の場合は、生理前になると胸が張ったり、心が不安定になることがあると思いますPMS(月経前症候群)の1つですね。
生理が遅れたり、生理周期が長くなったりもします。
肝気鬱結の状態から、ギアを変えられると、”疏肝解鬱”(溜まった気を流す)に向かえるのですが、これが難しいのです
何せ、このコントローラーを握っているのは、自分自身ではなく、”肝”(かん)だからですね。
ハッカは加味逍遙散の生薬の中で、疏肝解鬱(溜まった気を流す)の一番手ではないのですが、その補佐役を担っています
(加味逍遙散は、ボタンピが含まれているので妊婦の方は注意が必要です。)
他には、
荊芥連翹湯は、蓄膿症(副鼻腔炎)、慢性鼻炎、にきび。
柴胡清肝湯は、神経が勝っているタイプの方の扁桃炎、湿疹。
清上防風湯は首や頭などのニキビ。
川芎茶調散は頭痛など。
滋陰至宝湯は、せきや、たんなど。
防風通聖散は、筋肉たっぷりで便秘しがちの方に。またこのタイプの方の吹き出物に。
ハッカの説明は以上です
ところで、
解表剤(げひょうざい)には何種類かありますが、
主に、辛温解表(しんおんげひょう)と、辛涼解表(しんりょうげひょう)に分類できます。
辛温解表は、温めて発汗させ、汗とともに熱を逃して体の表面にある熱をクールダウンさせます。
辛涼解表は、先ほどのとおり、辛温解表よりは発汗させる力は弱いですが、涼しく感じさせながら、体の表面にある熱をクールダウンさせます。
同じ”辛い風味”でも2種類の解表(発汗してクールダウンさせる)の仕方があるということです。
ハッカは辛涼解表に分類されますが、例えば前回の中にでてきた、シナモンやシソ、生姜は辛温解表に分類されます。
次回はショウガについて見ていきたいと思います。
解表剤の中の辛温解表の中に含まれる生姜は
辛温解表のとおり、発汗させて冷ましたり、使い方によっては温めたりします。
今の季節、お鍋や湯豆腐など暖かいものをいただくと美味しく体もうれしいですよね。
そして、それには、薬味が欠かせませんね。
今回はその薬味の1つである、”しょうが”について見ていきたいと思います。
しょうがは他にも、しょうが湯、ジンジャエール、お寿司のがり、紅しょうがなど、とても馴染み深いものが多いですね。
そして、最近では、”ウルトラ蒸しショウガ”が人気ですね。
それではまず、生薬としての”しょうが”の種類を見ていきましょう。
しょうがには、生姜(ショウキョウ)と乾姜(カンキョウ)があり、どちらもショウガ科です。
生姜(ショウキョウ)は根茎。
乾姜(カンキョウ)は、根茎を湯通し又は蒸して乾燥させたもの。
このように、生姜と乾姜の違いは、乾燥させる前に加熱するかどうかです。
では、加熱すると何が良いのでしょうか?
生の新鮮なしょうがには、ジンゲロールという辛味の成分が多く含まれているのですが、乾燥や加熱をすると、ジンゲロールがショウガオールに変化します
つまり、加熱してから乾燥させると、ショウガオールがより豊富な”乾姜”(カンキョウ)が出来上がります。
あの”ウルトラ蒸しショウガ”は、生薬で言うと、”乾姜”ですね。
ショウガオールは、お腹まわりをじっくりと温める力が強いんです。
約100℃で30分ほど加熱すると、ジンゲロールがショウガオールに変わります。
調理すると煮汁に溶け出してしまったり、加熱する温度が高すぎると、ショウガオールが壊れてしまうため、オススメは、しょうがの炊き込みご飯です
ここでひとつ注意があります。
生姜(ショウキョウ)は、辛・微温なのに対して、乾姜(カンキョウ)は、辛・大熱です。
このように乾姜は、体を温める作用が強いため、発汗作用も強いです。
妊娠中は、普通に食事として摂っていただくことは問題ありませんが、摂りすぎて汗をかきすぎるのはおすすめではありません。
では”ショウキョウ”を見てみましょう。
“ショウキョウ”は、辛味で、発汗させ、体の表面の熱を発散させ、クールダウンさせます。このように、”ショウキョウ”は辛温解表(しんおんげひょう)に分類できます。
薬味を食べると、辛さで、ワッと汗をかき、スッキリしますよね
この食べ方をすると、夏に発生する、体の内側にこもっている蒸し暑さを発散させ、体を冷ますことができます。
つまり、薬味としての”しょうが”は夏向きの食べものなんですね💦
このように、しょうがによっては、体を温めたり、発散させてクールダウンさせたりすることができます。
では、あの葛根湯には生姜と乾姜のどちらが含まれているのでしょうか。
次に、漢方として”しょうが”はどんな風に使われているのか見てみましょう。
しょうがは、生姜(ショウキョウ)として使う時と、乾姜(カンキョウ)として使う場合があります。
生姜は多く漢方薬に使われていて、例えばツムラの漢方処方だけでも50以上の漢方薬に入っています。
活用範囲も広く、風邪、皮膚炎、胃腸の調整、婦人科疾患の漢方薬にも多く使われています。
生姜は、辛温解表薬(しんおんげひょうやく)で、次のような働きがあります。
前回少し触れていました、風邪の処方で有名なあの葛根湯に含まれる”しょうが”は、生姜(ショウキョウ)です。
妊娠中は、葛根湯よりも香蘇散(こうそさん)の方が良いとされています。
香蘇散には、発汗させる力がより強い麻黄(マオウ)が入っていないため、葛根湯よりもマイルドなんです。
葛根湯や香蘇散の出番は、かぜの引き始めです。
もし、かぜが長引いたり、熱が何日も出ると、少し体力を使っているので、その時は、妊娠中であれば参蘇飲(じんそいん)が良いとされています。
また、生姜は、胃苓湯(いれいとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)、平胃散(へいいさん)など、胃薬にも入っています。
元気を出すには欠かせない存在なんですね。
薄荷(ハッカ)の時に紹介した加味逍遙散にも少し入っています。
薄荷は辛涼解表なのに対して、生姜は辛温解表です。どちらも、からだの表面をクールダウンさせるのが共通点です。
ただし、加味逍遥散にはボタンピという生薬が含まれるため、妊婦さんには注意が必要です。妊娠中の服用は医師にご相談ください。
他には、こんな漢方もあります。
これらにも、生姜が含まれており、つわりにも良いとされています。
これで少しでも楽になることを願います。
つわりが起こる理由は実に、色々あるようです。
その理由の中には、つわりはからだをよりクリーンな状態にするために起こっているという考え方もあります。
もし、これらの漢方で少しでも楽になることができれば、楽しいベジタブルな生活をためしてみるのも良いかもしれませんね。
生姜は以上です。
生姜は体の表面を温めて、発汗させ、クールダウンさせるのに対し、乾姜は体の内側をじっくり温めます。
次に、「乾姜(カンキョウ)」がどんな漢方薬に含まれているか見てみましょう。
前回もお話ししましたが、
生姜(ショウキョウ)は、辛温解表(しんおんげひょう)薬で、乾姜(カンキョウ)は、温裏(おんり)薬になります。
裏(り)とは、おもに、体の内側(内臓)のことを表します。
つまり、生姜は体の表面を温めて、発汗させ、クールダウンさせるのに対し、乾姜は体の内側をじっくり温めます。
乾姜には、こんなお役目があります。
“痰”や”飲”も、もともとは、からだに必要なサラサラ体液だったのです。
温めたり、リフレッシュしたり、からだにやさしい食生活で、からだを脱”痰飲”モードにできます。
ちなみに、乾姜は、温める作用が強いため、発汗作用も強いです。
そのため、妊婦さんや、陰虚(からだの潤い不足)の方は汗をかきすぎないように気をつけましょう。
乾姜は、こんな漢方薬に入っています。
小青竜湯には、乾姜と、より発汗作用の強い麻黄(マオウ)が含まれており、苓甘姜味辛夏仁湯は、乾姜は入っていますが、麻黄(マオウ)が入っていないので、短期間であれば、妊娠中も、お使いいただきやすいです。
(東洋医学では、鼻みずも、余った体液と考えられています。いつも摂っている水分でも、寒いと、うまく蒸発しないんですね。)
他にも、乾姜(カンキョウ)は、このような漢方に含まれています。
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先程のお話の中にも出てきていますが、
東洋医学には、”陰陽”という考え方があります。
たとえば、からだを”陰陽”で表すと、
陽とは、気、エネルギー(形なき物)
陰とは、血、津液、精(形ある物)
(津液とは、気・血・水の≒水です。津液が滞ると痰飲になっていきます。)
陽虚は、代謝が低く、からだが冷えて、浮腫みやすい。
陽虚のタイプは、色が白く、体温もテンションも上げすぎない、エコなタイプ。
陰虚は、代謝が高く、からだが熱を持ち、乾燥しやすい。
陰虚のタイプは、からだはスマート、熱を帯びた、エネルギッシュなタイプ。
忙しい女子は、どちらかと言うと、陰虚に向かいやすいです。
陽虚の方は、温かい物を食べたり、軽くエクササイズをすると、温まって元気がでます。
陰虚の方は、野菜や魚など、ミネラルをたっぷり含んだものを摂ると、からだが上手に水を含めて潤います。
さて、陰の中には”精”(せい)というものが含まれているのですが、次回は、その”精”がつく食べ物の一つと言われている、山芋について見てみましょう。
文責:[生殖医療薬剤部門] 吉田 知世 山本 健児 [理事長] 塩谷 雅英