不妊治療の知識
無排卵症とは、読んで字のごとく排卵がない状態です。妊娠するためにはまず卵巣から卵子が排卵される必要がありますから、無排卵では自然妊娠は望めません。
排卵が起こるためには、視床下部、脳下垂体、卵巣の3者がうまく連携して働く必要がありますので、このいずれに異常があっても稀発排卵(排卵がたまにしかない)や無排卵となります。
無排卵症の治療には以下のものがあります。
1. ダイエットなど(体重調整)
2. 排卵誘発剤の飲み薬による治療(クロミフェン、シクロフェニル、レトロゾール)
3. 脳下垂体ホルモン製剤(HMG)治療
4. 多嚢胞卵巣症候群の治療
5. 卵巣性無排卵の治療
6. 高プロラクチン(PRL)血症の治療
7. 甲状腺機能異常の治療
ここから、排卵異常の治療について説明していきます。
肥満や痩せが無排卵の原因になることがあります。また、極端なダイエットや、短期間に体重が減少すると、無排卵となることがあります。
従って、体重が増えすぎたり少なすぎる方にはまず体重を調整していただきます。やせている方には体重を増やすよう、肥満の方には減量するように指導します。これだけで自然に排卵が起こることもあるのです。
多嚢胞卵巣症候群などのように、血液中の男性ホルモンが増加すると食欲が増して肥満となることがあります。
この場合、肥満は無排卵の原因というよりも、結果であると言えましょう。従って、この場合はダイエットだけでは排卵は回復しません。
無排卵の治療に用いられる飲み薬の排卵誘発剤として代表的なものは、クロミフェン(製品名/クロミッド)、レトロゾール(製品名/フェマーラ)、シクロフェニル(製品名/セキソビット)です。
クロミフェンやシクロフェニルには、抗エストロゲン(卵胞ホルモン)作用があります。
つまり脳の視床にはエストロゲンセンサーがありますが、クロミフェンやシクロフェニルはこのエストロゲンセンサーを働かなくしてしまいます。
その結果、脳はエストロゲンが足りないと勘違いして、性腺刺激ホルモンの分泌を増やし、排卵を促すことになります。
クロミフェンは、月経の2~5日目から、1日に1~3錠ずつを5日間服用します。
排卵誘発効果は、クロミフェンの方がシクロフェニルよりかなり強力です。
しかし、クロミフェンの抗エストロゲン(卵胞ホルモン)作用は子宮にも現れやすく、頚管粘液の分泌を抑えたり、子宮内膜の発育を妨げることがあります。
一方、シクロフェニルはクロミフェンに比べて排卵誘発効果が弱いため、あまり用いられていませんが、子宮頚管粘液は減少することなく、子宮内膜の発育を妨げることがありませんので、クロミフェンで排卵が起こるものの、なかなか妊娠しない場合に用いられます。
クロミフェン服用後の妊娠で多胎となる可能性は約7.5%と考えられています。
排卵誘発の目的でクロミフェンを使用した場合、胎児への悪影響は報告されていません。
経口の排卵誘発剤では排卵が起こらない場合や、排卵は起こるものの、なかなか妊娠につながらない場合、注射薬による排卵誘発治療が行われます。
これは、排卵が起こるために必要な脳下垂体ホルモン、すなわち、FSH(卵胞刺激ホルモン)に相当するものを皮下注射により投与して排卵を起こさせる治療です。
HMG-HCG療法、もしくはゴナドトロピン療法と呼ばれています。
一般的には、月経の3~5日目からHMGの筋肉注射を連日行い、超音波検査で卵巣の様子を観察します。卵胞の発育が充分になったところ(卵胞の最大径が17~20ミリ以上)でHCGの筋肉注射をします。このHCGの皮下注射後、30~40時間で排卵が起こります。
また、クロミフェン内服薬で卵胞を発育させた後に、HCGの筋肉注射をして排卵を起こさせることもあります。
脳下垂体ホルモン製剤(HMG)の排卵誘発作用は強力で、妊娠にもつながりやすいのですが、問題点もあります。一つは、同時に多数の卵子が排卵されてしまう結果、多胎妊娠となってしまう可能性があることです。HMGで妊娠した方の約5〜7%が多胎妊娠となります。もう一つは卵巣過剰刺激症候群を起こす 可能性があることです。
排卵誘発剤によって卵巣が過剰に刺激された結果、卵巣が夏ミカン位の大きさに腫れてしまい、さらに腹水や、場合によっては胸水もたまる病態です。腹部が膨れて、息苦しくなります。
また、水分が腹部にたまるために急に体重が増加し、尿の量が減少します。多くの場合は自然に治りますが、重症化すると命にかかわったり、重い後遺症を残すこともあります。
排卵誘発剤の中でも、クロミフェンやシクロフェニルを使用した場合ではめったに起こりませんが、HMGやHCGを使った後に起こりやすく、慎重に経過を観察する必要があるのです。特に、多嚢胞性卵巣症候群の患者さんは注意が必要です。
多嚢胞性卵巣症候群とは男性ホルモン過剰状態を特徴とする、排卵が起こりにくい病気です。
肥満もある方は、糖尿病を合併しやすいのでダイエットが必要です。
多嚢胞性卵巣症候群の治療は以下の5通りです。
まず用いる薬は、経口排卵誘発剤クロミフェン(クロミッド等)です。これで排卵が起こる場合には、6ヶ月から1年位続けます。ただし、クロミフェンは前述(クロミフェンとシクロフェニルの作用と副作用の比較)の通り、子宮内膜を薄くしたり、頚管粘液を少なくする副作用がありますので注意が必要です。副作用が強い例には、シクロフェニル(セキソビッド)を使用します。
経口排卵誘発剤で排卵が起こらない場合は、脳下垂体ホルモン製剤によるHMG-HCG療法を行います。妊娠に一番結びつきやすいのはこのHMG-HCG療法ですが、前述のように多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群という副作用がありますので注意が必要です。
卵巣の中の原始卵胞が極端に少なくなり、排卵が起こりにくくなる状態を卵巣性無排卵といいます。血液中のFSHの増加により診断されます。
原始卵胞が少しでもあれば排卵が起こる可能性があります。カウフマン療法やGnRHアナログの投与でFSHの分泌を抑えます。その後、卵胞ホルモン製剤の投与によりFSHレセプターの増加を計りつつ、卵胞の発育を期待します。原始卵胞の減少による無排卵の場合、クロミッドやHMG製剤の効果はあまり期待できません。
卵巣機能が低下すると、卵巣の働きを促すため脳下垂体から多量のFSHが分泌されます。高濃度のFSHにさらされた卵巣は、FSHに対する反応性が低下してしまいます。
そこで、このFSHの分泌を抑え、卵巣の反応性を回復させる必要があります。カウフマン療法では、卵巣ホルモンを周期的に投与し、FSHの分泌を減少させます。
高プロラクチン血症とは、PRL(乳汁分泌ホルモン)の分泌が増加して排卵が起こりにくくなる病態です。まずその原因を調べます。
原因としては、ストレス、甲状腺機能低下、多嚢胞性卵巣症候群、脳下垂体のプロラクチン産生腫瘍の他に、薬剤の副作用などが考えられます。
カベルゴリン(カバサール)をまず使用します。
また、PRLを産生する脳下垂体腫瘍が見つかった場合は、投薬による治療の他に、稀に手術が行われることもあります。
内服後の吐き気があります。
甲状腺機能異常には、機能が亢進する甲状腺機能亢進症と、機能が低下する甲状腺機能低下症があり、いずれも不妊症や流産の原因となります。
甲状腺機能亢進症の場合は、抗甲状腺剤を内服により投与します。
また、甲状腺機能低下症の原因が体重の減少である場合には、体重を増やすことをお勧めします。