診療・治療
日本ではいまや年間4万人以上の赤ちゃんが不妊治療によって誕生していますが、治療を受ける女性の高齢化などにより、なかなか妊娠しない方や流産を繰り返す方が増えています。その理由の一つに胚の染色体異常が挙げられます。
日本ではこれまで遺伝的背景のないご夫婦に対するPGTは行われていませんでしたが、2016年より日本でも一部の施設でPGT-A/SRの臨床研究が開始されました。その結果、2021年9月の中間報告ではPGT-A/SRを実施していない群に比べ、PGT-A/SRを実施した群の移植あたりの妊娠率の向上が期待できるという結果が得られました。そのため2022年9月から、治療の一環としてPGT-A/SRが行われることになりました。
PGT-A/SRご希望の方は、“説明資料(不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学検査について(PGT-A/-SR編))”に目を通していただき、診察にて希望があることを医師にお申し出ください。採卵時までに必ず遺伝カウンセリングにご来談、また日本産婦人科学会HPにあります説明動画を以下のURLよりご視聴ください。
(日本産婦人科学会HPより引用)
このHPでは、PGT-A/SRの一部内容についてご紹介いたします。
対象は反復ART不成功の方、習慣流産(反復流産)の方とさせていただいています。
また均衡型転座などの妊娠に影響のある染色体の変化をお持ちの方は妊娠歴に関係なく対象となりますので、PGT-A/SR希望なら医師へご相談ください。
法律上婚姻関係のないご夫婦でも実施可能です。
本検査の対象は、当院に通院されている患者様が対象となります。当院を受診されたことのない方はまず診察予約をお取りいただき、受診をお願いいたします。
PGT-A/SRは保険適用外です。そのため実施をご希望される場合は体外受精も自費で行う必要があります。
胚盤胞になればすべてが検査可能というわけではなく、状態によっては検査ができない場合があります。
凍結胚を融解して検査を実施することは可能です(保険適用で凍結した胚は除く)。
しかし、その場合は再凍結・再融解が必要となりますので、それに伴う影響や費用について十分な説明を受けた上でご検討ください。
PGT-A/SRの検査結果によっては移植できる胚が1つもなく、移植に至らない可能性があります。
また、『A』もしくは『B』とされた胚を移植しても妊娠しない、あるいは流産する可能性もあります。
染色体疾患のある赤ちゃんを出産する可能性は非常に低くなりますが、PGT-A/SR でもすべての染色体異常を見つけられるわけではありません。結果について不安が残る場合は、妊娠後に行う出生前診断をご検討ください。
PGT-A/SRを行う場合、新鮮胚での移植はできません。胚盤胞は一度凍結保存して、検査機関からの結果を待ちます。検査の結果をふまえ、移植する胚が決定したら、1つの胚のみ融解して移植を行います(複数胚移植はできません)
判定結果はあくまで移植する胚を選択するための参考情報です。そのためご夫婦の判断を尊重した上で、『A』以外の胚の移植についても検討されます。
PGT-A/SRの診断精度は100%ではないため、出生前診断を受けるかどうかはご夫婦で検討していただく必要があります。出生前診断について詳しくご相談希望の方は、遺伝カウンセリングにてご相談をお受けしております。
一旦検査に同意された場合でも、いつでも同意を撤回し、検査を中断することができます。ただし、進行中の検査費用については返金いたしかねますのでご注意をお願いいたします。
体外受精・胚移植実施中で、胚移植で2回以上妊娠が成立していないご夫婦
2回以上流産したことがあるご夫婦 *ただし化学妊娠※は含まれません
※胎嚢(赤ちゃんが入っている袋)が確認できていない妊娠
夫婦いずれかに妊娠に影響する染色体の形の変化(構造異常)を有するご夫婦
排卵誘発治療(卵巣刺激)は、本来であれば毎月1つのみ育つ卵子を複数個育てるために行われます。いくつかある方法から、ひとりひとりにあった方法を医師よりご提案させていただきます。
卵巣から卵子を採取します。
体外に取り出した卵子と精子を受精させます。受精の方法には、卵子に精子を振りかける体外受精(IVF)と卵子に精子を直接注入する顕微授精(ICSI)の2種類があります。
実際の受精方法は、採卵当日の精子の状態や過去の治療歴、そしてご夫婦の希望をふまえ、採卵後に医師よりご提案させていただきます。
採卵当日に受精させて、2〜3日後には受精卵の細胞が2〜8つに分裂します。この状態を分割期胚(あるいは初期胚)と呼びます(図a)。
その後順調に成長が進むと、5〜6日目に胚盤胞と呼ばれる状態まで成長します(図b)。胚盤胞まで培養し、将来赤ちゃんになる部分の細胞(ICM:内細胞塊)を傷つけないように、将来胎盤などになる細胞(TE:栄養外胚葉)から細胞を一部採取(生検)します。胚盤胞の状態によっては細胞が採取できず、検査ができない可能性もあります。細胞を採取した後の胚は、凍結保存します。
採取した細胞を用いて、染色体の検査を行います。
検査には次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)を利用します。この方法により、染色体の情報量に過不足があるかどうかを調べます。検査結果につきましては、検査実施日から約1ヵ月後に担当の医師よりご説明させていただきます。
お電話ではお答えできませんので、必ずご来院をお願いいたします。
遺伝学的検査の結果、染色体の情報量に過不足がないと考えられる胚のみを子宮に戻します。
詳しくは当院の“体外受精教室テキスト”をご参照ください。
染色体には常染色体とよばれる1〜22番(大きさ順)までの染色体(2本セット)と性染色体とよばれるX染色体とY染色体があります。この2本セットの染色体が、3本(トリソミー)になったり、1本(モノソミー)になったりすると妊娠しなかったり、流産をしたり、症状のある赤ちゃんとして生まれたりすることが知られています。
PGT-Aの検査結果は以下の4つに分類されます。
PGT-Aは性別を知ることを目的とした検査ではありませんので、性別については、性染色体に変化がない限り医療機関にも公開されません。また、性染色体(X,Y染色体)のみに変化が見られる場合、『A』という評価になります。この場合、性染色体(X,Y染色体)にどのような変化があり、赤ちゃんにどのような症状などが考えられるかなどの詳細については遺伝カウンセリングにてご説明させていただきます。通常診察では対応致しかねますので、ご了承の程宜しくお願い申し上げます
上記の図の横軸の数字(1-22,X,Y)は、各染色体の番号を示しています。縦軸の数字は染色体の情報量を示しており、染色体の情報量が中央値(2.00)より多いと上に点で示され、少ないと下に点で示されます。染色体が1本多く3本ある場合(3.00)をトリソミー、1本少ない場合(1.00)をモノソミーといいます。
検査結果の例をいくつか示します
染色体の情報量に過不足がない可能性が高く、『A』と判定される胚です。この場合、下記の図のように波形は中央値(2.00)付近となります。
染色体の情報量に過不足がある可能性が非常に高く、『C』と判定される胚です。これらのような胚ではグレードが高くても、着床しない、もしくは流産してしまうことが予測されます
。ただし、13、18、21、X、Yは出生可能な場合があります (例) 21 トリソミー:ダウン症候群
X、Y染色体のみの変化の場合は、『A』という評価になります。
『正常』な細胞と『異常』な細胞の両方の細胞が存在する可能性があると考えられ、『B』と判定される胚です。
下記の図では3番染色体の情報量が中央値(2.00)とモノソミー(1.00)の中間に位置しています。このような胚は『Mosaic(モザイク)』と呼ばれます。
モザイクは解釈が非常に困難であり、染色体の番号やモザイク率などによって判定が下されます。(後述)
『正常』な細胞と『異常』な細胞の両方の細胞が存在する胚をmosaic(モザイク)いいます。
『Mosaic』であった胚にも、『正常な細胞が多い低頻度Mosaic』と『異常な細胞が多い高頻度Mosaic』があります。
例えば、10個の細胞を検査したとします。
10個中7個が正常な細胞 3個が異常な細胞の場合
(30% Mosaic)
10個中4個が正常な細胞 6個が異常な細胞の場合
(60% Mosaic)
正常な細胞
異常な細胞
このようにMosaicでは、異常な細胞の割合が胚によって異なります。Mosaicを移植の対象とするかどうかの判断は、どの染色体にどの程度異常な細胞があるのかなどを考慮して行われます。
PGT-A/SRを受けるということは、染色体異常をもつ可能性が低いと判断された胚を移植するとういうことになります。このことから、下記のようなことが期待されています。
PGT-A/SRは完璧な検査ではなく、また不明確な部分もある方法です。
そのため、下記のようなことが危惧されています。
2本セットの染色体が、すべて3セット(3倍体)や4セット(4倍体)になる変化。
変わらない変化のため、基本的にご両親と同じであれば健康上の問題はありません。
注意事項