診療・治療
【背景】不妊の約10-20%は原因不明であり、原因解明が求められている。卵成熟機構には未解明の部分が存在し、不妊原因が卵異常に起因する場合は現在の医療では治療できないことが多い。
【目的】本研究では体外受精反復不成功患者を対象とした遺伝子変異の網羅的解析を行い、不妊原因となる遺伝子変異を調べることを目的とした。
【方法】2021年1月から10月の間に英ウィメンズクリニックにおいて体外受精を行った患者のうち体外受精反復不成功患者25人と同クリニックスタッフで自然妊娠出産し、本研究参加に同意が得られた10人の血液からDNAを抽出し、次世代シーケンシング(NGS)による遺伝子変異の網羅的解析を行った。
【結果・結論】NGS解析の結果、自然妊娠出産者10人に存在しないHigh impactな変異が57遺伝子に存在し、うち7遺伝子(ADAM33, CEP89, CRIPAK, OR52N4, PDZRN3, RAET1E, SPATA31A3)において、患者群と8.3KJPNデータベースの対照群間のアレル頻度に有意な差が検出された。また、完全不妊が存在しない状態でハーディワインベルグ平衡(HWE)が成立すると仮定した場合、9遺伝子(ADAM33, CEP89, OR2T29, OR52J3, OR52N4, RABL2A, RNF17, SPATA31C1, WWTR1)において対象患者における実測値とHuman Genetic Variation Database (HGVD)からの算出値に乖離が生じていることが判明した。これらの遺伝子変異のうち、ハムスターにて胚発生阻害が起こることが報告されているpiRNA経路の関連遺伝子であるRNF17、およびICM・TEの分化に重要な役割を有するヒッポシグナル経路の関連遺伝子であるWWTR1の変異は新規不妊原因遺伝子変異である可能性が示唆された。