診療・治療
先進医療として着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)が承認され、今後PGT-Aを実施する機会がより増えることが予想される。しかしながら、PGT-Aを実施するためには栄養外胚葉を生検する必要があることから、技術者に高度な技術が求められ、またこの操作は胚への侵襲を避けることが出来ない。
そのため、非侵襲的に妊娠率の高い胚を予測することが可能であれば、患者が得られる恩恵は大きいと考えられる。一般的に雄性前核は雌性前核より大きいと言われているが、雌雄2前核の確認は通常受精から16-18時間後に行われる。これはsyngamyの約4時間前に相当するため、この時間差により雌雄2前核の大きさの差異が生じている可能性がある。当院は過去に、雌雄前核それぞれの大きさを観察・比較することで、出産の可能性が高い胚を非侵襲的に予測することが可能であることを報告した(大月ら,2019 Fertil Steril)。しかしながら、この手法は雌雄前核の観察に多大な労力を必要とすることから、臨床上運用には大きな問題があった。そこで、AIを用いて前核出現から雌雄2前核核膜消失(PNMBD:Pro Nuclear Membrane Break Down)までの動的な解析を自動化し、臨床上実用可能な出産可能胚を予測する評価モデルの確立を試みた。
2020年1月~9月の期間において、当院で単一凍結融解胚盤胞移植を行った369周期を対象とし、後方視的に検討を行った。AIがタイムラプス培養器で得られた画像を用いて、前核出現からPNMBD にいたるまでの両前核の面積を経時的に測定し、PNMBD直前と8時間前の両前核の面積をそれぞれ比較することで、出産可能胚を予測した。予測した胚の臨床妊娠・出産率の正解率には混同行列を用いた。また、このAIの開発はネクスジェン株式会社と共同で行った。
AIが出産可能胚と判断したのは、365個中112個(369個のうち前核消失時探知不能4個)であった。この112個の胚の移植あたり臨床妊娠率(陽性的中率)は52.3%となった。一方、AIで出産できないと判断された胚による移植後の非妊娠率(陰性的中率)は54.7%となり、混同行列を用いた正解率は54.0%であった。また、AIが出産可能胚と判断した112個の胚の移植あたりの出産率は43.2%であった。一方AIで出産できないと判断された胚による非出産率は62.6%となり、混同行列を用いた正解率は56.7%であった。
AIの陽性的中率は、日本産婦人科学会が実施しているPGT-A特別臨床研究の中間報告よりやや低い値だった。一方、出産率の陰性的中率が62.6%であることから、まだ改善の余地はあるものの、AIを用いる事によって非侵襲的かつ低コストで移植胚を選別できる可能性が示唆された。AIは未だ開発途中のものであり、AIへの教師データを増やしていき学習を深めることで正解率の上昇が今後期待される。