診療・治療
新型コロナウイルスとの闘いは2年以上となり、一時落ち着いていたと思われたわが国の状況も、今年に入ってオミクロン株の影響により悪化し、最大の感染者が出ることとなった。コロナウイルスとの闘いは当初考えられていたよりも長期化しており、多くの国民に深刻な影響を与えている。感染者数の増加に不安になったり、減少に安心したりを繰り返すと、メンタル面への影響も大きい。特に不妊治療中の患者は、治療への悩みに加え、コロナ情勢への不安もあり一般の方より心理的な影響は大きいと考えられる。そこで当院では、患者の状況や生活行動の変化についてアンケートを2回実施し、実際の患者心理への影響等を調査した。
クリニックとしての感染予防策として、消毒やアクリル板の設置等、通常の感染防止策に加え、オンライン診療を開始し、カウンセリングもオンラインで行う体制を構築した。また体外受精教室、妊娠セミナー等Webに変更できるものはできる限りWebにする方針とした。世間のデジタル改革への機運も後押しして、これらの変更はスムーズに実施できた。実際に、患者アンケートでは「当クリニックのコロナへの対策をどのように感じますか?」の質問に対して、96%の人が安心できると返答していた。しかし、「現在,不妊治療を受診することに対して不安がありますか?」という質問に対しては、73.4%の人が「不安がある」と返答しており、やはり不安を抱きながら受診されていることが伺えた。
コロナの影響としては、社会全体の行動制限がもたらすストレス反応、経済的打撃、家族関係の変化などが考えられる。また、厚生労働省が公表した2021年の出生数の速報値では前年から3万近く減り過去最少を更新し、将来不安で妊娠を控える動きなど少子化の加速が確認された。今回のアンケートでは、不妊治療を延期・中止した人はアンケート1回目20%、2回目14.1%であった。また、「新型コロナによる生活の変化によって,現在の不妊治療の受診や妊娠に向けた行動は妨げられていますか?」という質問に対して,1回目47.9%,2回目30.5%の人が「妨げられている」と返答していた。そのため、実際に治療を延期・中止までには至った方は多くはないものの、受診や行動を妨げられた方が3割以上となり、ストレスの原因となっていると考えられた。また、2022年に実施した2回目のアンケートにおいては、新型コロナワクチンへの不安が根強く、90.8%の人が「不安」と返答しており、ワクチン接種していない人は16.9%であった。
支援で重要な点として、コロナに対する不安やストレスを持って受診されていることを理解して接すること、長期化するコロナによって心身のエネルギーが低下していないか日々気をくばりながら患者に接することが大切であると考える。また、治療を再開したときにはスムーズに再開できるようサポートしたり、治療に対する相談を持つ機会が必要であると考えられた。