診療・治療
【背景・目的】当院では、婦人科だけでなく男性不妊専門のクリニックを併設し、連携することで様々な症例に対応している。2015年には男性不妊を担当する江夏らが、精巣内精子回収法(Testicular sperm extraction:TESE)におけるクラインフェルター症候群(Klinefelter syndrome:KS)の精子回収率について報告を行ったが、その後の治療成績については解析を行っていなかった。その為、今回我々はKSの核型に着目し、TESEにて精子を回収できた症例において培養成績及び妊娠成績を比較したので報告する。
【対象・方法】2011年1月から2021年12月において、当院にてTESE精子が回収できた非モザイク型KS;20症例(38周期)、モザイク型KS;7症例(25周期)の培養成績と、移植成績について診療記録をもとに解析を行った。
【結果】非モザイク型とモザイク型において、顕微授精における運動精子使用率は、51.3%(143/279) vs 100.0%(70/70)であった(P<0.001)。培養成績は、受精率79.9%(223/279)vs75.7%(53/70)(N.S)、2PN率44.4%(124/279) vs 65.7%(46/70) (P<0.01)、分割率50.7%(113/223) vs 96.2%(51/53) (P<0.001)、D5胚盤胞発生率27.2%(25/92) vs 44.7%(17/38) (N.S)となった。移植を行ったのは非モザイク型で10症例(26周期)、モザイク型で4症例(12周期)であり、単一胚盤胞移植において化学妊娠率57.7%(15/26)vs58.3%(7/12)、臨床妊娠率30.8%(8/26) vs 33.7%(4/12)、流産率11.5%(3/26)vs16.7%(2/12)、出産率19.2%(5/26) vs 16.7%(2/12)となった(N.S)。
【考察】非モザイク型とモザイク型を比較すると、受精率には差がないが、運動精子使用率、2PN率、分割率において非モザイク型が有意に低くなった。非モザイク型であっても精子さえ獲得できれば、モザイク型と同様の受精率が得られていた。しかしながら、非モザイク型では運動精子を使用できない症例が多く、2PN率が低い原因となっている可能性が示唆された。一方、非モザイク型症例であっても胚盤胞まで成長を認めればその後の妊娠成績において両群に差は認められず、TESEにおいて運動精子を確保することが最終的な妊娠率向上に重要であることが示唆された。今後も症例数の蓄積と解析を継続し検討していく予定である。