診療・治療
【目的】近年、挙児を希望して来院する患者の高齢化が顕著となりつつある。卵巣機能は年齢とともに低下するため、高齢患者の治療においては卵巣機能の評価が重要である。当クリニックでも、血中AMH値測定を通して卵巣の予備機能を評価したうえで、治療方針を決定するようにしている。AMH5pM未満の症例は卵巣の予備機能が高度に低下していると考えられ、治療が奏功しにくいとされている。しかし、このようなAMH低値の症例においても治療が奏功し、妊娠に導くことが可能な症例も存在する。今回我々は、AMH5pM未満の高度卵巣予備機能低下と診断されたものの妊娠に至った症例を振り返り、どのような方法で妊娠となったか明らかにすることにより、今後の治療やケアに役立てるために検討を行った。
【方法】2010年12月24日~2011年9月3日の期間内に、AMH5pM未満の症例437例のうち妊娠に至った事例45名について検討を行った。調査期間は2011年9月19日~9月23日である。
【結果】対象437例のうち、AMH5pM未満で妊娠に至ったのは45名(10.3%)であった。AMH1.0pM未満84名中妊娠例が3例(3.6%)、AMH1.0以上3.0pM未満154名中妊娠例が14名(9.1%)、AMH3.0以上5.0pM未満199名中妊娠例が28名(14.1%)であった。対象437例全体の平均年齢は40.5歳、妊娠例の平均年齢は39.1歳であった。妊娠方法は妊娠例45名のうち、タイミング法6名(13.3%)、AIH4名(8.9%)、ART35名(77.8%)であった。AMH3.0pM未満の妊娠例17例のうち妊娠方法はAIH2例を除き、すべてARTによる妊娠であったが、AMH3.0pM以上の28例の妊娠例のうちタイミング法による妊娠6例がみられた。ART例35例について、平均採卵数は3.5個、受精数は平均2.4個であった。移植方法は、新鮮胚移植が13名(37.1%)、融解胚移植が22名(62.9%)であった。AMH1.0pM未満の妊娠例は3例であり、すべて40歳以上で、採卵数受精数ともに平均1.3個、妊娠に至った誘発方法はすべてクロミフェンまたはセキソビット+COSの併用、3例中2例は単一新鮮分割期胚移植であった。AMH1.0pM以上の妊娠に至った移植方法は、新鮮胚移植より凍結融解胚移植の方が多くみられた。
【考察】AMH5pM未満の対象437名のうち妊娠に至ったのは45名(10.3%)と低く、AMH値が上昇するにつれ妊娠例が増えていた。AMH1.0pM未満の妊娠例は3例みられた。AMH1.0pM未満の妊娠例はすべてクロミフェンまたはセキソビット+COSの併用であることから、AMH1.0pM未満のARTの誘発方法は強い方法は適さないのではないかと考える。また、AMH1.0pM未満3例中2例は単一新鮮分割期胚移植であったが、AMH1.0pM以上は新鮮胚移植より融解胚移植の方が多かった。受精数が少ない場合、最良良好胚を選択し、移植することが困難であることから、移植方法は卵巣や子宮内膜の状態によって判断するべきではないかと考える。AMH低値でも妊娠例がみられた背景として、AMH値やその他の検査や過去の誘発内容から慎重に誘発方法を決めているのも要因の一つであると思われる。AMH3.0pM未満の妊娠方法は、AIH2例をのぞきすべてがARTによる妊娠であり、AMH3.0pM未満の場合、卵巣低反応の状態のために早期にARTを勧めた方がいいのではないかと考える。今後、AMHは治療を勧めていく段階でステップアップする判断因子となりえることから、ステップアップの時期に対しても検討をおこなっていきたい。