診療・治療
【発表の概要】
【はじめに】多胎妊娠はARTの副作用の一つであり、その抑止は重要な課題である。多胎を減少させるためには単胚移植(SET)を積極的に推進していく必要があるが、その結果妊娠率が低下するならば治療を受ける側にとっては受け入れがたいものとなろう。従ってSETを定着させるためには移植胚を1個にしても妊娠率を維持する努力が必要である。今回は移植胚数を減らすために当院が歩んできた過程をご紹介し、かつSBTでの妊娠率向上の工夫について報告する。
【SETへの当院の取り組み】2005 年度当院の平均移植胚数は1.9個であり、多胎率は16.2%であった。そこで2006年度後期よりは症例を選び原則SETとするという方針を立て、移植胚数の減少に取り組んできた。その結果、平均移植胚数は1.2個前後、多胎率は5%前後に低下し、SET周期は、30%から80%へと増加した。一方この間、移植周期当たりの妊娠率は35%前後で推移しており大きな低下は無かった。
【初期胚移植からSBTへ】近年、SETでは初期胚よりもSBTが有利であるとする報告が増えている。移植する胚の選別が容易で着床率が高いことがその理由である。当院でも積極的にSBTを取り入れてきた。このことが、妊娠率を維持できている重要な要因と考えている。
【新鮮胚よりも凍結胚へ】当院の成績では、新鮮胚周期よりも凍結胚周期での着床率が一貫して高い。このことから移植胚を1個に制限する場合、凍結胚移植とする方が有利である。 2005年度には全妊娠例の54%が凍結胚移植で得られたが、2007年度からは80%以上の妊娠が凍結胚移植によるものとなっている。
【子宮内膜刺激胚移植法(SEET)】移植した胚の着床過程については不明な事が多いが、胚と子宮内膜の相互作用が重要な役割を果たしているという報告が多く見られる。そこで胚を培養した培養液に着目し、胚盤胞の移植に先立ってこの培養液を子宮内に注入する(SEET)ことで着床率が高まるかどうか検討した。その結果、SEETでは妊娠率が顕著に高まるという結果を得た。そこで、SEET群とBT群さらにST群(胚を培養していない培養液を注入)の3群間の妊娠率をRCTで比較した。その結果、 G3AA以上の胚盤胞を移植した場合、妊娠率は、SEET群、ST群、BT群の順に高く、SEET群とBT群の間には有意差を認めた。G3AA以上の胚盤胞は、着床条件さえ整えば着床する可能性が高い胚であることから、SEETには着床促進効果があることが示唆され、SBTを実施する上で有効な手段であると考えている。