診療・治療
【発表の概要】
【目的】
現在、予測困難な受精障害を回避するために卵子をIVFとICSIに分けて受精させるSplit ICSIは、広く臨床応用されているが、不必要なICSIを実施している可能性は否定できない。2012年ASRMの報告1)では、ICSIをルーチンで行う事で、予想外の受精障害を回避することはできるが、1例の受精障害を回避するために30例の不必要なICSIを行う事になるという見解を述べている。
当院では以前に同学会誌にてsplit ICSIの適応基準を定義2)し、それ以降、IVFにて低受精率が予想される精液所見のみsplit ICSI を実施し、IVFにて受精可能と予測される良好な精液所見(IVFの適応基準)ではできる限りIVFを実施してきた。splitICSIの適応基準を設けることで、IVFにおける受精障害の割合は減少したが、一方で、2009年~2010年において採卵時回収卵が4個以上で、IVFの適応基準と判断しIVFを実施した周期において 0.8%(15/1826)の頻度で受精障害が発生している。その為、我々はIVF周期における原因不明の受精障害を可及的に回避する目的で、2012年6月より回収卵数が4個以上でIVFを実施した症例において、採卵当日のrescue-ICSI(以下r-ICSI)を導入したので、その現状について報告する。
【方法】
2012年6月から12月までにr-ICSIについて患者の同意が得られた回収卵数が4個以上のIVF 493周期を対象とした。媒精4時間後に第2極体(以下2PB)放出確認による受精予測を実施し、2PBが確認できた卵が成熟卵数の30%以上であった場合はr-ICSI対象外とした。2PBが成熟卵数の30%未満であった場合は更に2時間後に再確認を行い、その際に2PBが成熟卵数の30%以上であった場合はr-ICSI対象外とし、2PBが30%未満であった場合にr-ICSIを施行した。受精判定は媒精18~20時間後に行った。
【結果】
平均年齢は、36.6±4.3歳、平均採卵回数は2.0±2.2回だった。
IVF 493周期中95.1%(469/493)はr-ICSI対象外となった。そのIVF周期の受精率は74.3%(3345/4499)、胚盤胞発生率は49.5%(1107/2238)、良好胚盤胞率43.3%(479/1107)であった。r-ICSI対象となったのは4.9%(24/493)であり、受精率は84.1%(122/145)、胚盤胞発生率は47.1%(49/104)、良好胚盤胞率は39.7%(31/78)、r-ICSI後の3前核(3PN)率は4.1%(5/122)であった。r-ICSIの対象となった24周期の中で、2PBが確認されr-ICSIを実施しなかった卵(IVF周期)の受精率は9.3%(22/237)、胚盤胞発生率は56.3%(9/16)、良好胚盤胞率は11.1%(1/9)であった。r-ICSIの対象となった 24周期中12周期50.0%(12/24)でr-ICSIにのみ受精卵が得られ、12周期50.0%(10/24)はr-ICSIとIVFどちらの周期においても受精卵が得られた。レスキューICSIを導入して以降受精卵が得られなかった周期は0.2%(1/493)であった。
【考察】
r-ICSIの適応となった24周期のうち12周期でr-ICSIのみに受精が得られ、一方で12周期はr-ICSIとIVFの両方に受精が得られたが、IVFの受精率は9.3%でありr-ICSIを施行しなかった場合、低受精率であった可能性が考えられた。r-ICSI導入以降、受精障害の発生頻度は0.2%に減少したが、r-ICSI後の3PN率が4.1%であった。これは同時期のICSI 実施周期の3PN率が、2.6%(67/2536)であった事から、人為的であると考えられる3PNがおよそ1.5%生じてしまった可能性が考えられた。しかし、従来では受精障害及び低受精率であったと考えられた症例をr-ICSIによって救済することができたことは明らかでありr-ICSIの有用性が示唆された。今後は、
r-ICSIの適応基準の検討なども考慮していきたい。
【参考文献】
1)Practice Committees of the American Society for Reproductive Medicine and Society for Assisted Reproductive Technology. Fertil Steril 98: 1395-9,2012
2) Hashimoto,et al. J. Mamm. Ova. Res., 21: 209-213, 2004.