診療・治療
【発表の概要】
【目的】精子側の要因がICSIの治療成績に与える影響を検討する目的で、精子濃度別の治療成績を後方視的に検討した。また精巣精子での治療成績も併せて比較検討した。
【方法】対象は、2000年3月-2008年12月までにICSIを実施した2342周期で、卵子側の要因を小さくするため妻年齢を38歳未満とし、A-E(A-C;射出精子群、D,E;精巣精子群)の5群に分けて検討した。A群;精子濃度≧2000万/ml(n=1118)、B群;1000-1999万/ml(n=283)、C群;<1000万/ml(n=628)、D群;閉塞性無精子症(OA)(n=220)、E群;非閉塞性無精子症(NOA)(n=93)。
【結果】各群における受精率と胚移植あたりの臨床妊娠率は、A群;73.1%(958/1311)、35.2%(394/1118)、B群;73.6%(257/349)、38.2%(108/283)、C群;70.4%(525/746)、35.8%(225/628)、D群;63.3%(364/575)、35.9%(79/220)、E群;63.5%(211/332)、26.9%(25/93)であった。受精率は、A-C群間には有意差を認めず、D、E群間においても有意差を認めなかった。一方、A-C群とD、E群の比較では、D、E群において有意に受精率が低かった(P<0.001)。臨床妊娠率は、A-C群間及びD、E群間においては有意差を認めず、またA-C群とD、E群の比較でも有意差を認めなかったが、他群と比較しE群は妊娠率が低い傾向であった。また射出精子を用いた群で、運動率が与える影響を検討したが、C群内で運動率40%未満と40%以上とを比較した場合、受精率が有意に低かった(P<0.05)が、他の群内ないし群間比較では有意差を認めず、また臨床妊娠率も、運動率別の各群内および群間比較で有意差は認めなかった。
【結論】射出精子の精子濃度はICSIの治療成績に大きな影響を及ぼさない事が示唆された。一方、精巣精子を用いた場合は、射出精子を用いた場合と比較して受精率が有意に低く、更にNOA症例の場合は妊娠率も低くなる傾向を認めたため、NOA患者のICSIに際しては、より慎重に精子選別を行うなどの対策を講じる必要があるものと考える。