診療・治療
【発表の概要】
【目的】
精子の凍結保存は、人工授精及び採卵時に、夫が不在な場合などにおいて有効である一方で、精子融解後の運動率は凍結前と比較し低下する症例が多い。近年、Calamera らは、融解時の温度が精子の運動率及びATP保持量に影響を与えるとの報告をしている( Fertil Steril 2010)。精子のATP保持量は、DNA損傷との関連が考えられており、精子機能検査の一つとされている。そこで、今回我々は、融解時の温度を26℃(室温)、37℃、40℃の3群に分類し、各群の融解後の精子運動率及びATP保持量について比較検討をおこなったので報告する。
【方法】
検討対象はWHOの正常精液基準値(精子濃度1500万/ml、運動率40%)を満たした精液30検体を対象とした。
<凍結方法> 原精液を精子凍結保護剤であるTest Yolk Buffer Medium(Irvine Scientific)と1:1の割合でよく混和し、凍結ストローに0.2mlずつ分注して液体窒素蒸気下(-80℃)にて15分間冷却した後、液体窒素中(-196℃)に投入して凍結保存した。
<融解方法> 液体窒素から取り出したストローは融解時の温度を26℃(室温)、37℃、40℃の3群に分類した。26℃は当院の融解法に準じたAir Thawingを3分間行い、37℃、40℃は、Calameraらの方法を参考に、ウォーターバスにて震盪しながら3分間おこなった。融解後の精液はUniversal IVF Medium(Origio)1mlと混和した後に1000rpmで5分間の洗浄を2回行い、Universal IVF Medium0.3ml加えたものを精子調整液とし、ATP assayと運動率の測定に用いた。ATP assayにはATPバイオルミネッセンスアッセイキットFLAA(Sigma Aldrich)と小型ルミノメーター ジーンライトGL‐200A(マイクロテックニチオン)を用いて、ATP量を測定した。
【結果】
凍結前における平均運動率は61.1±12.4%であった。融解後の運動率及びATP保持量は、室温で14.7±8.3%、2.35±1.4×10-8 mol/l、37℃では8.9±4.5%、1.41±0.8×10-8 mol/l、40℃で7.1±3.1%、1.54±0.9×10-8mol/lであった。運動率、ATP保持量ともに室温が高い傾向が認められた。(表1)
【考察】
本研究では、凍結精子は室温で融解処置を行う場合に最も運動率が高く、ATP保持量も多くなる傾向がみられた。しかし、今回検討したいずれの群でも融解後の精子運動率には低下を認めており、より良い精子凍結条件、凍結方法を模索していく必要性が示された。
今後更に、融解時の温度も含めて、凍結・融解のどの過程で大きなダメージを受けるのかを解明し、新たなプロトコールを検討していく予定である。