診療・治療
【発表の概要】
顕微授精法は重症男性不妊例や受精障害例に対して用いられている。日本産科婦人科学会の見解では「顕微授精法は、難治性の受精障害で、これ以外の治療によっては妊娠の見込みがないか極めて少ないと判断される夫婦のみを対象とする」としているが、顕微授精法の適応となる精液所見の具体的な数値は明示されてはおらず、各施設が独自の基準や判断によって適応を定めているというのが現状である。当院では以下のデータをIVFまたはSplit ICSIの適応を決める際の参考としている。
<初回ART症例で4個以上の卵子を回収できた症例のうち、IVFを施行し435症例とsplit ICSIを施行した28症例の成績―makler counting chamberを用いてー>
IVFを施行した症例において、精子濃度が2000万/ml未満の症例のうち40%の症例で受精率が30%以下となったのに対し、2000万/ml以上の症例で受精率30%以下となったのは8.4%であった。精子運動率20%未満の症例のうち受精率が30%以下となった症例は40%存在したのに対し、精子運動率20%以上の症例では9.7%であった。さらに運動精子数が1000万/ml未満の症例では58%の症例が受精率30%以下になったのに対し、 1000万/ml以上では7.8%であった。
split ICSIを施行した症例において、運動精子数が1000万/ml未満の症例ではIVFでの受精率が43.3%であるのに対し、ICSIでは61.3%であった。運動精子数が1000万/ml以上の症例ではIVFとICSIで受精率に差はみられなかった。
以上より、運動精子数1000万/ml未満または精子濃度2000万/ml未満または精子運動率20%未満の場合にIVFを施行した場合、受精卵が得られる頻度が低くなるためSplit ICSIまたはICSIの適応を考慮したいと考えている。
IVFを施行した435症例のうち受精卵が0個の症例は16症例(3.7%)で存在した。これらの症例を精液所見からあらかじめ予測することは不可能であった。
本シンポジウムでは、さらに最近当院に導入した精子運動解析装置SMAS(樫村株式会社)を用いた精子計測と受精率についても言及する。