診療・治療
【目的】
IVFおよびICSI後の受精判定時に前核を1個しか認めない胚(以下1PN胚)は、染色体異常の確率が高いものの移植によって児を得たという報告もある。以前我々も、1PN胚であっても胚盤胞へ発生すれば
2倍体胚が存在することを報告した。現在当院では1PN胚は、胚盤胞に発生すれば移植可能胚として取り扱っており、正常受精(2PN)胚から優先して移植を行うものの、1PN胚しか無い場合には移植を行うか
患者と相談している。今回我々は1PN胚の治療成績について解析した。
【方法】
2009年1月~2015年3月に、IVF由来1PN胚盤胞を移植した83 周期をIVF-1PN、ICSI由来1PN胚盤胞を
移植した23周期をICSI-1PNとし、グレード別の臨床妊娠率、流産率、生児獲得率および先天異常率を検討した。同期間に2PN胚由来の凍結融解胚盤胞1個移植を行った10793周期(以下CL)を対照とした。
【結果】
平均年齢は、IVF-1PN、ICSI-1PN、およびCLで差は認めなった。臨床妊娠率(%)は、IVF-1PN 36.1、ICSI-1PN 0、CL 40.7で、良好胚盤胞における臨床妊娠率(%)は、IVF-1PN 55.0、CL 52.0であった。
流産率(%)は、IVF-1PN 13.3、CL 22.5で、良好胚盤胞における流産率(%)は、IVF-1PN 9.1、CLが 20.9であった。生児獲得率(%)は、IVF-1PN 22.4、CL 30.9となり、先天異常率(%)は、IVF-1PN 6.7、CL 1.9であった。IVF-1PNとCLにおいて臨床妊娠率、流産率および生児獲得率、先天異常率に
有意な差は認めなかった。一方、ICSI-1PNの臨床妊娠率は、他の2群より有意(P<0.001)に低かった。
IVF-1PNの1例の先天異常は気胸であった。
【考察】
本検討より、1PN胚でもIVF由来でかつ胚盤胞まで発生すれば2PN胚と同等の生児獲得率を期待できることが示唆された。一方で、ICSI由来の1PN胚は胚盤胞へ発生しても移植後の妊娠率は低く、文献的には妊娠例が報告されているものの、当院では妊娠例は無かった。今後ICSI‐1PN胚を移植の対象と出来るかどうか
さらに検討する必要性がある。