診療・治療
【発表の概要】
抗リン脂質抗体陽性不育症患者では、抗凝固療法として低用量アスピリン・へパリン併用療法が標準的治療とされている。また、抗リン脂質抗体の一つである抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)は、反復初期流産患者に最も多くみられる抗リン脂質抗体といわれているが、抗凝固療法におけるへパリン投与期間について検討された報告は少ない。
【目的】
抗PE抗体陽性患者において、低用量アスピリン・へパリン併用療法におけるへパリン投与期間の違いによる妊娠後転帰を比較検討した。
【対象と方法】
当院にて2007年1月から2010年8月において反復流産あるいは着床不全にて抗リン脂質抗体(LAC,抗CL抗体,β2GPI,抗PE抗体,抗PS抗体)検査を施行した症例611例のうち、抗PE抗体のみ陽性となり、インフォームドコンセントのもと妊娠判明後低用量アスピリン・へパリン併用療法を施行した38例の中で、へパリン投与期間が12週未満まで、あるいは分娩前まで続行し得た症例に限定し、かつ妊娠後転帰の明らかな25例を対象とした。へパリン投与を妊娠12週未満で中止した群を短期投与群(15例)、分娩前まで投与した群を長期投与群(10例)とし、後方視的に検討した。低用量アスピリンはアスピリン100mg/日を妊娠前黄体期より内服開始し妊娠末期で中止とし、へパリンは妊娠判定時よりカプロシン2500単位を1日2回皮下注射とした。
【結果】
両群において、平均分娩時週数(38.3週vs 39.1週)、平均出生時体重(2871.1g vs 3100.9g)には有意差がなかった。長期投与群において低置胎盤により36週で帝王切開となった症例がある他は両群とも早産症例、IUGR症例、母体血栓症など合併症を認める症例もなかった。
【結語】
初期流産を繰り返す不育症患者のうち、抗PE抗体のみ陽性の症例においては、低用量アスピリン・へパリン併用療法におけるへパリン投与は初期のみで中止しても妊娠予後はよい可能性が示唆された。