英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

研究開発・学会発表

診療・治療

第26回 日本受精着床学会総会・学術講演会

  • 無精子症カップルに対する当院の取り組み -産婦人科医の立場から-
  • 平成20年8月28日~29日 福岡国際会議場
  • 第26回 日本受精着床学会総会・学術講演会
  • 塩谷 雅英
    英ウィメンズクリニック

【発表の概要】

【目的】生殖補助技術の進歩により無精子症のカップルでも挙児を望むことができるようになったが、期待通りの結果を得られないケースもある。そこで、患者がデータに基づいて自らの治療を選択・決定する一助となるべく無精子症カップルに対する当院の取り組み、およびその治療成績について報告する。「診断までの流れ」多くの場合スクリーニング検査の一環として実施した精液検査にて無精子症と診断される。泌尿器科専門医による男性外来にて診断されるケースもある。無精子症と診断された場合、泌尿器科医と産婦人科医が連携して治療に当たっている。「遺伝カウンセリング」非閉塞性無精子症(NOA)の10-15%には染色体異常が認められることから、全例G-band染色体検査を施行し、必要に応じて遺伝カウンセリングを実施している。

【治療】閉塞性無精子症(OA)において精路再建術が可能な場合を除いて基本方針はcryoTESE/ICSIである。TESEは連携病院にて実施し、胚培養士が精子の有無を確認、得られた組織は当院で凍結保存しその後の治療に備えている。精子を確認できなかった組織も一旦凍結保存し、後日実際のICSIに準じて充分な時間をかけて精子の有無を確認するようにしている。

【治療成績】2003年1 月~2007年7月の間にTESEを施行したのは、閉塞性無精子症 (OA)74例および、非閉塞性無精子症 (NOA) 140例、合計214例であり、OAに対してはconventional TESEを、NOAに対してはMD-TESEを行った。精子回収率(SRR)は、OAで98.6%、NOA全体では32.9%であったが、MD-TESEを65件実施した2007年度は43.5%であった。CryoTESE/ICSIを実施したのは OA 67例(184周期)、NOA 40例(75周期)であった。治療までの精子の平均凍結期間は、OAで299日、NOAで259日であった。精子凍結期間の長短と妊娠率には関連を認めなかった。受精率はOAで63.0%に対し、NOAで57.6%とNOAで有意に低率であった。胚盤胞発生率、良好胚盤胞発生率はそれぞれ、OAで 37.1%、14.4%、NOAでは35.7%、14.0%であった。症例あたりの妊娠率、移植周期あたりの妊娠率、着床率、on going 妊娠率は、OAでそれぞれ 71.6%、29.9%、17.4%、22.6%、NOAでそれぞれ50.0%、30.9%、17.5%、26.5%であり、症例当たり妊娠率はNOAで有意に低率であった。妻の年齢別の検討では、受精率と分割率において年齢による影響はみられなかったが、症例当たり妊娠率は、30才未満で84.6%、 30~36才で62.1%、37~39才で33.3%、40才~で12.5%と妻の年令が高くなるにつれて顕著に低下した。胚移植当たり妊娠率および着床率にも同様の傾向がみられた。36歳未満の症例当たり妊娠率は、NOAでOAに比し有意に低率であった。「非モザイク型クラインフェルター症候群の検討」 NOAの14.3%(20/140)を占めていた。SRRは35%であった。移植当たり妊娠率は30%、TESE/ICSI症例当たり妊娠率は、 42.9%であった。

【治療困難症例に対する取り組み】得られた卵子よりも発見できた精子の方が少ない症例は7例ありこのうち妊娠例は運動精子でICSIを行えた1例のみであった。運動精子を発見することができず、非運動精子のみによるICSIを行った13例のうち妊娠例は4例のみであった。TESE/ICSIでは運動精子を利用することが重要な要素の一つであることが示唆される。当院では非運動精子しか見あたらない場合や微弱な運動しか認めることが出来ない場合には、精子懸濁液にカフェインを添加し運動の活性化を促している。運動性を認めなかった16例中8例にカフェインを使用したところ6例で運動精子によるICSIを行うことができ、5例が妊娠に至っている。

【 まとめ】治療成績にもっとも大きな影響をおよぼす因子は、治療を受ける女性の年令であることが示唆された。特にNOAではこの傾向が顕著であった。無精子症と診断されたなら早期に治療を開始することが重要である。NOA症例においてMD-TESEによるSRRは低めに留まっているが、症例の増加と共にSRRも高まったことから手術習熟度はSRRを高める上で重要なポイントであると考えられた。非運動精子での治療成績は低くなるが、活性化処理で運動精子を得られれば良好な治療成績を得られた。

診察ご予約は
こちら
さんのみや診療予約
loading