診療・治療
タイムラプスインキュベータでの培養では、胚を培養庫から取り出さずに観察できることから、従来のインキュベータと比べ胚への負荷が少なく、培養成績の向上が期待される。その一方で、培養液の浸透圧の上昇による負の影響も懸念される。そこで今回、従来型とタイムラプスインキュベータにおける治療成績を比較検討したので報告する。
当院では、2019年9月から全症例にタイムラプスインキュベータを使用するようになった。その前後で、従来型およびタイムラプスインキュベータの両方での培養を実施した症例、472症例944周期を対象とした。従来型での培養をM群(467周期, 2220個)、タイムラプスインキュベータでの培養をTL群(471周期, 2118個)とした。検討項目は受精率、正常受精率、分割率、良好分割率(≧4cellG2)、D5胚盤胞発生率、D5良好胚盤胞率(≧G3BB)、D5,D6胚盤胞発生率、採卵周期あたりの臨床妊娠率とした。
平均年齢はM群38.5±4.6歳、TL群39.0±4.5歳であった。M群およびTL群の受精率、正常受精率、分割率、良好分割率、 D5胚盤胞発生率、D5良好胚盤胞率、D5+D6胚盤胞発生率はそれぞれ、83.3% vs 79.3%、 71.5% vs 68.3%、 90.4% vs 89.1%、 49.5% vs 58.5%(p<0.001)、 44.7% vs 49.7%、 43.4% vs 54.9%(p<0.001)、 53.8% vs 57.4%であり、良好分割率、D5良好胚盤胞率においてTL群が有意に高かった。また、採卵周期あたりの臨床妊娠率は、それぞれ25.1% vs 37.3%で、TL群で有意に高値を示した。
タイムラプスインキュベータでの培養成績は、従来型よりも良好であり、妊娠成績にも改善が得られた。この結果は、胚を取り出さずに観察することが胚へのストレス軽減につながる事を示唆している。さらには、非加湿型のタイムラプスインキュベータでは培養液の浸透圧上昇を避けることができないが、この負の影響を補うものであることが示唆された。