診療・治療
日本において提供精子を用いた人工授精(DI)は匿名で行われている。しかし2000年頃からこの治療で生まれた人(DCP)が匿名のDIや親が子供に黙っていることは出自を知る権利の侵害と主張し、提供者情報の開示を要求している。ニュージーランド(NZ)では法律で精子提供は非匿名とされ、提供者の情報管理システムがあり、DCPは出自を知る権利が守られている。将来、日本のDCPの出自を知る権利を保障し提供者情報にアクセスする手段を確保する枠組みを構築するために、NZでのDIの仕組みと現状を日本との比較を行い考察した。
2016年8月から10月、NZの生殖医療現場で医師、心理カウンセラー等、医療専門家及びDIを選択した親やDCPとの面談、さらにカンタベリー大学心理学客員教授Ken Danielsからの情報提供を基に調査した。
NZではHART Act 2004という法律でDIは非匿名とされ、DCPと親、提供者間に明確は親子関係の定義が明記されて複雑な遺伝関係、親子の関係など問題に対処している。またDCPが提供者情報にアクセスできるシステム、各医療施設と国が二重に治療に関連する人々の情報管理する体制、親から子へのDIの告知の勧奨、DCPと提供者との接見などに必要な適切な心理カウンセリングを受けるサービスが充実していた。現状の問題点として告知は親に依存していること、少数派といえども親からDIについて語られていないDCPが存在すること、シングルマザーやレズビアンカップルの提供精子需要が増え、相対的提供精子不足、費用の高騰化、スクリーニングの精度などがあきらかとなった。日本に非匿名提供精子制度を導入する場合、1)DCPが出自を知る権利を保障し、DCPの親子と提供者の関係を明確にする法律や、2)情報管理の徹底、3)親、DCP、精子提供者など当事者それぞれの心理支援などの充実が必要と考えられる