診療・治療
Piezo-ICSIではインジェクションピペットの先端で卵細胞膜を伸展させた後にPiezoパルスによって破膜するが、Piezoパルスを与える前に破膜する卵子がある。このようにインジェクションピペットの先端で卵細胞膜を伸展させただけで破膜する卵子はその後の変性率が高いことが報告されている(木下ら,日生殖医学会2018)。しかしながら、破膜した位置の違いについて検討した報告は少ない。そこで本検討では、Piezo-ICSI時に破膜した位置の違いがその後の培養成績に及ぼす影響について検討した。
検討期間は2020年7~12月である。Piezoパルスを与える前に破膜した卵子のうち、インジェクションピペットの先端が卵子の中心より手前の位置で破膜した卵子を手前群、中心より奥で破膜した卵子を奥群とした。手前群はインジェクションピペットを押し進め、卵細胞の中心より奥で、奥群はその位置で精子を注入した。Piezoパルスによって初めて破膜した卵子をコントロール群(C群)とした。
検討対象の平均年齢は40.9±3.4歳、当院平均ART回数は5.0±5.5回であった。C群、手前群、奥群の受精率は順に81.1%、59.0%、84.4%、変性率は1.9%、36.5%、10.1%、継続培養あたりの胚盤胞発生率は45.4%、29.2%、54.9%、良好胚盤胞率20.3%、11.1%、19.6%となり、変性率は全ての群間に有意差を認め、受精率および胚盤胞発生率は手前群が他群に比べ有意に低くなった。
本検討より、卵細胞膜低伸展卵子の中でも卵細胞の中心より手前の位置で破膜した卵子において著しい培養成績の低下を認めたが、中心より奥で破膜した卵子では、受精率、胚盤胞発生率において卵細胞膜伸展良好卵子と遜色ない結果が得られた。今後は卵細胞の中心より手前で破膜した卵子を救済する穿刺方法について検討していきたい。