診療・治療
卵子に対する光暴露はアポトーシス頻度を増加させるため、体外での胚操作時には光暴露の影響を最小限に留めることが望ましい。近年、発光ダイオード(LED)の普及により、顕微鏡の光源にもLEDを選択することが可能になっているが、ヒト卵子をLED光源に曝露した場合の影響についての報告はほとんどない。そこで本検討では、LED灯あるいはハロゲン灯を接続した同型の倒立顕微鏡を用いて、光源の違いが顕微授精(ICSI)成績に与える影響について前方視的に比較検討を行った。
2018年5月~2019年7月に顕微授精を実施した1390周期(4163個)を対象とし、患者毎に無作為にハロゲン灯の倒立顕微鏡(ハロゲン群)、又はLED灯の倒立顕微鏡(LED群)に振り分けてICSIを施行した。受精率、変性率、分割率、正常受精当たりの良好分割率(4cellG2≤)、継続培養胚当たりのD5,D6胚盤胞発生率、D5良好胚盤胞率(G3BB≤)を比較検討した。
ハロゲン群703周期(2122個) およびLED群687周期(2041個)に対して検討を行った。平均年齢はそれぞれ40.4±4.3歳、40.2±4.4歳で両群間に差はなかった。分割率はLED群でハロゲン群より有意に高く(92.6% vs 94.4% p=0.027)、正常受精あたりの良好分割率はハロゲン群で有意に高い値を示した(55.0% vs 51.3% p=0.03)。また、D5,D6胚盤胞発生率、D5良好胚盤胞率には両群で差がなかった。
本検討で、LED群において正常受精率が有意に低い値を示したものの、実際には50%以上と高い割合であったことから、LEDの使用は卵に悪い影響を及ぼしたというほどではないと考えている。したがって、LED光源の使用は初期胚発生に影響する可能性はあるものの、最終的な胚盤胞発生に影響しなかったことからも、ICSIにおけるLED光源の使用は従来のハロゲン灯と同等の成績が得られるものと考えられる。