診療・治療
現在、国内の多くの体外受精実施施設において、dish表面に親水性処理を施した細胞培養用dishが広く用いられている。しかしながら、dish表面処理がヒト胚培養に与える影響について比較検討した報告はない。そこで本研究では、dish表面処理の有無が、ヒト胚の受精後の培養成績に与える影響を検討することを目的とし、表面処理されたdish (Falcon 3002)と表面処理されていないdish (Nunc 150270) における培養成績を比較検討したので報告する。なお、Nunc 150270は米国及びヨーロッパでその使用が認可され、胚培養に対する安全性試験が実施されている。
2016年7月~9月を対象期間とし、受精判定時に2PNが4個以上得られた136周期(2PN=968)を対象症例とした。なお、同一症例を親水性のFalcon製dish(Falcon群;2PN=478)、疎水性のNunc製dish(Nunc群;2PN=490)に分けたsplit培養を行った。検討項目として、Day2時の分割率、および良好分割率(4cellG2≤)、継続培養胚当たりのDay5胚盤胞発生率、および良好胚盤胞発生率(G3BB≤)について比較検討を行った。
検討対象の平均年齢は34.4±4.4歳、平均ART回数は1.7±1.4回であった。またFalcon群、Nunc群の培養成績として、それぞれ順に分割率 (97.7% vs. 98.6%; p=0.31)、Day2良好分割率(57.2% vs. 56.5%; p=0.84)、Day5胚盤胞発生率 (53.8% vs. 57.3%; p=0.32)、ならびに良好胚盤胞発生率(25.9% vs. 25.5%; p=0.89)であり、全ての項目において両群間に有意な差は認めなかった。
今回の検討より両群間において培養成績に差は見られなかった。すなわち、ヒト胚の体外培養においてはdishに対する表面処理は必ずしも必要ないことが示唆された。