診療・治療
雌雄2前核(2PN)期の約3-6%に1前核(1PN)形成が起こることが知られている。1PN形成には単為発生に起因する1倍体の雌性1PNや精子核のみの雄性1PNと、雌雄両方のゲノムを含む2倍体1PNがあり、後者は児が生まれることがある。IVFの場合、第二極体放出後、精子の膜融合部位に受精丘が形成され、続いて細胞内にCytoplasmic Wave(CW)が起こる。第二極体放出は雌性、受精丘/CWは雄性前核形成のサインであることから、両サインを有する1PNの動態解析を行い有益な結果を得たので報告する。
2019年1月~7月の期間にiBIS(アステック社)を用いたタイムラプス観察を行った3,337個のIVF受精卵のうち、第二極体放出の位置、受精丘もしくはCWの起点が確認できた477個(1PN:24、2PN: 453)の後方視的解析を、IRB承認を得て行った。第二極体放出起点と受精丘/CW起点の距離を測定し、1PNとなる場合の距離のカットオフ値をROC曲線解析により求め、雌雄ゲノム含有1PN形成となる確率を算出した。
IVF受精卵の1PN, 2PN率はそれぞれ4.3%(145/3337), 81.3%(2714/3337)であり、そのうち受精丘/CWはそれぞれ1PN: 16.6%(24/145), 2PN:16.7%(453/2714)に確認できた。受精丘出現から後退までの平均時間は、100(±37)分であり、受精丘後退後15~30分以内にすべてが後退地点よりCWを開始した。1PNとなる場合の距離のカットオフ値は18μmであり、AUCは0.972 (95%CI:0.955-0.988)と非常に高い判別能を示した。よって、雌雄ゲノム含有1PNは計算上(半径18μm地点の表面積/全体の表面積)2.7%の確率で起こることになる。
本研究において、第二極体放出起点から半径18μm以内に精子が侵入した際に雌雄ゲノム含有1PN形成が起こることが判明した。ヒトMII期卵母細胞では、微絨毛の分布が均一であることが報告されており、雌雄ゲノム含有1PN形成は自然妊娠においても同程度の確率で起こっていると推測される。