診療・治療
厚生労働省の「出生に関する統計」によると、日本の出生児の男児比は1.05~1.06とされている。ART施行後に男児数が多いという報告や、変わらないといった報告など出生児の性比についてさまざまな報告があり一定の見解は得られていない。今回我々は、当院でのART時の媒精方法(c-IVF又はICSI)の違いによるそれぞれの出生児性比への影響について後方視的に検討を行ったので報告する。
2011年1月から2016年9月に当院で単一胚盤胞移植を行った12743周期を対象とした。c-IVF群は8436周期(36.3±4.1歳)、ICSI群は4307周期(36.2±4.3歳)であり、平均年齢は両群において有意差を認めなかった(p=0.21)。それぞれの媒精方法で得られた胚を移植し、妊娠後分娩に至った3825児の性比を比較検討した。出生児性比は、女児を1.0としたときの男児の比率で示した。また、有意差検定にはχ²検定を用い、児の性別が不明であったもの、双胎妊娠であったものは除外とした。
c-IVFの出生児性比は1.16(男児1403人vs.女児1210人)となり、男児が有意に多い結果となった(p=9.3×10⁻⁸)。ICSIでは1.03 (男児616人vs.女児596人)となり、有意な差は見られなかった(p=0.42)。また、c-IVFとICSIで比較したところ、有意差はないもののc-IVFで男児比が高い傾向にあった(p=0.098)
c-IVFの出生児性比は男児数が女児数に比べ有意に多かった。一方、ICSIでは、差は見られなかった。ICSIでは男女比に差が無く、c-IVF で男児比が高くなったことから、顆粒膜細胞から透明帯を貫通する過程で、Y精子が選別されやすいメカニズムの存在が示唆された。今後、このメカニズムについても検討していきたい。