診療・治療
胚培養士が習得すべき技術のなかで、顕微授精手技は最も高度な技術の一つであることは議論の余地の無いことであり、手技の巧拙によって受精卵の数が減ることもあれば、増えることもあるため、その技術は非常に重要である。当院では安定した高い受精率かつ、低い変性率を達成できる手技を習得できるよう教育プログラムを構築している。2000年の開院以来、当院において顕微授精操作は、Conventional ICSIを第一選択としてきたが、1995年にYanagimachiらによってマウスにおけるPiezo-ICSIの有用性が報告され、1998年には、YanagidaらによってPiezo-ICSIの有用性がヒトにおいても報告された。それらの報告を受け当院でもPiezo-ICSIの有用性を検討した結果、42歳以上の患者においてPiezo-ICSIで培養成績の向上を認めた。これ以降、当院では老化した卵子においてPiezo-ICSIがより有効であろうと考えている。
Piezo-ICSIを実施する際に私が注意していることは、安定した穿刺が可能となるベストなセッティングを毎回再現することであると考えている。これは基本的なことのように感じるが、臨床の場で毎回確実に再現することは簡単ではないと感じる手技者もいるだろうと推測している。我々は過去にPiezo-ICSIを導入したが受精率及び胚盤胞発生率の向上が認められず、Conventional ICSIを第一選択に戻したという経緯がある。この原因として、当ラボではConventional ICSIを迅速に行う技術を習得することを第一の目標としていたため、Piezo-ICSIを実施する際に必要とされる精緻なセッティングに違和感を覚える者もおり、その結果、施行者間に技術のバラツキが生じ、成績に負の影響があったと考察した。その後、技術のバラツキがないようにするため、手技者は熟練技術者一人に固定しPiezo-ICSIの有用性を再検討した結果、35歳以上症例において、有意な培養成績の向上を認めた。また、更なる成績向上を目指すためにPiezoXpertⓇ (Eppendorf 社)を導入した。この Piezo機器は、時間のかかるセッティングが短時間で可能となり、また先に述べたセッティングの再現性が高く、スタッフの技術の標準化がより可能となった。これらの改善を行い、2019年より40歳以上症例の顕微授精はPiezo-ICSIを行うという治療方針に変更した結果、前年(2018年)と比較し有意な培養成績の向上が確認出来た。このようにPiezo-ICSIといってもその技術が未熟であれば、良好な成績は期待出来ないが、安定したPiezo-ICSI技術を確立さえすれば、胚発育の向上が期待出来ることが示唆された。本講演では私がPiezo-ICSI時に注意していることについて言及していきたい。