診療・治療
ARTの精子調整で用いられる密度勾配遠心分離法(以下:DGC)は、精子に対する物理的ダメージやsperm DNA fragmentation (以下:SDF)の増加が懸念されている。
以前当院では遠心分離を行わず運動良好精子を選別する装置「ミグリス」(株式会社 メニコン)とDGCとの比較検討を行うため、簡易SDF測定キットHalosperm®G2 (Halotech DNA)を使用した(2019、日本IVF学会)。その結果、SDF値はミグリスの方が低値であった。しかしながら、Halosperm®G2は染色後、目視による測定となり、客観性に乏しい問題があった。そこで本検討では、客観的な方法としてTUNEL染色を行ったあとフローサイトメトリー(以下:FCM)で解析しSDF値を測定した。本研究では、以前のDGCとミグリスに加えて、遠心分離法(以下:Wash)の3群のSDFを比較検討したので報告する。
2020年5月から10月に精液検査を受けた患者のうち、同意を得られた51症例の精液検体を用いて検討を行った。ミグリスには精液1.5mlを使用し、残りはDGC・Washへそれぞれ供試した。精子調整には、Universal IVF Medium(以下:UIM、 Origio)を用いた。DGCではSepa Sperm(株式会社 北里コーポレーション)を用いて200G×10分で2層(80%、40%)密度勾配遠心分離法を施行し、上清除去後、UIMを用いて200G×5分遠心分離後、調整液を回収した。WashはUIMに精液を混濁し200G×20分で遠心分離を行った。調整法ごとに精子数2×10^6個になるように一部を回収してTUNEL染色を行った後、FCMで解析し比較検討を行った。
51症例の平均患者年齢は36.7歳、原精液所見は液量が3.5ml、精子濃度が114.0×10^6個/ml、運動率は59.3%であった。平均SDF値は原精液18.4%、DGC 16.3%、ミグリス 7.9%、Wash 20.7%であり、ミグリスが有意に低かった。原精液からみたSDF値の増減率はDGC 11.2%減少、ミグリス54.1%減少、Washは14.7%増加となった。各方法それぞれで増減率を比較したところ、ミグリスが他2群と比較して有意に低値であった。
SDF値はミグリスで有意に低下を認めた。一方、DGCとWashでは検体間で遠心の影響により増減したが、有意差は認められなかった。またミグリスはDGCとWashにおけるSDF値の増減率と比較しても有意に低値となった。FCM法においても、ミグリスはDGC及びWashよりもSDF値が低下することが示された。以上より、ミグリスはDGC及びWashと比較して、より精子へのダメージが少ない調整法であることが示唆された。