診療・治療
卵子に対する光暴露はアポトーシス頻度を増加させるため、体外での胚操作時には光暴露の影響を最小限に留めることが望ましい。近年、発光ダイオード(LED)の普及により、顕微鏡の光源にもLEDを選択することが可能になっている。LEDは消費電力が少なく長寿命であるといった特徴から様々な分野で使用されているが、ヒト卵子をLED光源に曝露した場合の影響についての報告はほとんどない。そこで本検討では、LED灯あるいはハロゲン灯を接続した同型の倒立顕微鏡を用いて、光源の違いが顕微授精(ICSI)成績に与える影響について前方視的に比較検討を行った。
2018年5月~12月に顕微授精を実施した547 周期(1637個)を対象とし、患者毎に無作為にハロゲン灯の倒立顕微鏡(ハロゲン群)、又はLED灯の倒立顕微鏡(LED群)に振り分けてICSIを施行した。どちらの群も倒立顕微鏡はOLYMPUS社;IX73、インジェクションシステム;TAKANOME(NARISHIGE)を使用し、光源以外は同一の機材を用い、受精率、変性率、分割率、良好分割率(4cellG2≤)、継続培養胚当たりのD5,D6胚盤胞発生率、D5良好胚盤胞率(G3BB≤)を比較検討した。
ハロゲン群:242周期(778個)の平均年齢は39.2±4.6歳、LED群:305周期(859個)の平均年齢は40.0±4.6歳であった。培養成績は順に受精率(83.0% vs 87.0% p=0.026)、変性率(6.4% vs 5.7% p=0.540)、分割率(91.5% vs 95.2% p=0.005)、良好分割率(53.0% vs 50.4% p=0.348)、D5,D6胚盤胞発生率(47.0% vs 50.9% p=0.227)D5良好胚盤胞率(45.8% vs 40.1% p=0.260)であり、受精率、分割率においてLED群が有意に高い値となった。
今回の検討により、顕微授精におけるLEDの使用は受精および初期発生に影響を与えることが示唆され、顕微授精の成績向上の一助となる可能性が考えられた。光源メーカーによると顕微鏡に使用されるLEDはフィルタ制御によってハロゲン灯に近い分光特性を持つとのことであり、本検討における成績の差は各光源の波長の違いによるものではないと考えられる。また、一般的にLEDは発熱が抑えられるとされているため、今回の成績の改善と熱の関連について、更なる検討が必要であると考えている。