診療・治療
我が国では晩婚化に伴い不妊に悩むカップルが増え,不妊治療は広く知られるようになった。これまで婦人科に来院した女性を対象とした調査は多いが,男性を対象とした報告は少ない。本研究は今日における男性の不妊治療への意識・男性不妊への認知度を調査した。
【方法】
2020年6月~9月に男性不妊外来を受診した男性患者400名を対象とした。アンケートは無記名式で行い,内容は治療に対する思い,男性不妊外来,男性不妊への認知度など,これらについて一部自由記載の選択式とした。個人情報は,個人情報保護法に基づき厳重に管理していることをアンケート用紙中に明記し,回答を以って研究に同意したものとした。
平均年齢は36.2±6.4歳,年齢幅は20~63歳,回収率は88.5%(354/400)であった。患者背景は初診125名(35.3%),再診188名(53.1%),無回答41名(11.6%)であった。ご自身及びパートナーの検査を行った順序について,全体に占める割合が多い順に「女性が先」180名(50.8%),「パートナーと同じ時期」109名(30.8%),「男性が先」53名(15.0%),無回答12名(3.4%)であり,女性が先に検査をしたカップルが約半数を占めた。検査の結果はどのような形で聞きたいかについて,「カップルで」191名(54.0%),「男性のみで」141名(39.8%),「女性のみで」5名(1.4%),無回答17名(4.8%)であった。初回精液検査の結果について,「想定より悪かった」192名(54.2%),「想定していた程度だった」62名(17.5%),「未検査」62名(17.5%) ,「想定より良かった」23名(6.5%),無回答15名(4.2%)であり,想定より結果が悪かったという回答が半数以上を占めた。パートナー以外の家族・知人に不妊治療のことを話せるかについて,「はい」262名(74.0%),「いいえ」86名(24.3%),無回答6名(1.7%)であり,パートナー以外の家族・知人に不妊治療のことを話せるという回答が大半を占めた。「いいえ」の理由は,プライベートなことだから,世間体が気になる,相手に余計な心配をかけたくない等の意見があった。また知人には話せるが,家族にはがっかりさせてしまいそうだから話せないという意見があった。積極的に不妊治療に取り組みたいかについて,「そう思う」225名(63.6%),「ややそう思う」88名(24.9%),「どちらともいえない」31名(8.8%),「ややそう思わない」4名(1.1%),「そう思わない」2名(0.6%),無回答4名(1.1%)であった。「どちらともいえない」「ややそう思わない」「そう思わない」の理由は,経済的負担があるため,第1子がいるのでもういいのではと思っている,(治療に)疲れてきた,辛いことも多いから,子供を急いでいない等の意見がみられた。不妊治療を通してパートナーとの話し合いやコミュニケーションは増えたかについて,「変化はなかった」170名(48.0%),「増えた」168名(47.5%),「減った」2名(0.6%),無回答14名(4.0%)であった。男性不妊外来を受診した前後で治療に対する関心・理解度は高まったかについて,「高まった」288名(81.4%),「変化はなかった」52名(14.7%),「低くなった」0名(0%),無回答14名(4.0%)であった。受診した前後でご夫婦の不安やストレスは増えたかについて,「どちらともいえない」233名(65.8%),「増えた」74名(20.9%),「減った」29名(8.2%),無回答18名(5.1%)であった。男性不妊に関する認知度については,WHO(世界保健機関)によれば不妊症カップルの約半数は男性側にも原因がある。「知っている」280名(79.1%),「知らない」67名(18.9%)であった。男性の生殖機能や精子の質も加齢に伴い低下し流産リスクの上昇を与える事がある。「知っている」254名(71.8%),「知らない」93名(26.3%)であった。精液検査の結果にはばらつきがあるので1回の検査で判断しないことが大切。「知っている」243名(68.6%),「知らない」104名(29.4%)であった。近年,ストレスや過労による精液所見の低下がみられる男性が増えている。「知っている」255名(72.0%),「知らない」92名(26.0%)であった。
検査を行った順序について「女性が先」「パートナーと同じ時期」の回答が多かったのは,当院のウィメンズクリニックからの紹介が多い為と考えられる。ウィメンズクリニックとメンズクリニックが併設していることで,カップルの検査結果,治療方針等の情報を共有し,婦人科と泌尿器科の各専門医師が連携して最適な治療を患者に提供でき,また女性と男性が並行して治療を進められることが当院の強みと考えられる。今回の結果よりパートナー以外の家族・知人に不妊治療のことを話せるかについては「はい」の回答が74%を占めた。婦人科に来院した5471名(女性99.2%,男性0.8%)を対象とした2017年の報告1)から,職場で「不妊治療をしている」ことを81.3%の方が「話しづらい」と回答した結果と比較し,自身の不妊治療について話せる男性が予想より多い印象を受けた。これより,不妊治療のことを話せるかについて男女間で差があると考えられた。前述の報告1)から,不妊であることを知られたくない,理解してもらえなさそう等の理由が多く,仕事と治療の両立が難しい現状があり,周囲の理解を得ること,職場の不妊治療に対する支援の充実が必要である。また,積極的に不妊治療に取り組みたいかについて,男性不妊外来を受診した男性の10.5%は治療に前向きになれない気持ちや不安を抱えており,理由として経済的負担に関する意見が最も多かった。男性不妊外来を受診した前後で,ご夫婦の不安やストレスは増えたかについて「増えた」「どちらともいえない」という回答が86.7%であったことから,治療を通して身体的・精神的なストレスを感じていることが伺えた。可能な限り少ない来院回数,利用しやすい予約システム,待ち時間の短縮,カウンセリングの充実等さらなる工夫も必要と考えられた。また,男性不妊に関する認知度については厚生労働省の2015年の調査2)の結果とほぼ一致し,各問いに「知っている」という回答が約7~8割であった。前述の調査では男性より女性の方が男性不妊についての認知度が高く,関心が高い傾向が伺えた。今回の結果より,男性患者が不妊治療に対してどう感じているのか,男性不妊外来の受診で不妊治療への関心・理解度を高める手助けとなることが分かった。女性と男性の治療をサポートし,かつ不妊治療をカップルの問題とし,不妊治療を行うにはカップルで閲覧できるWebセミナーや,最新の資料・情報の提供が必要であると考えられた。
【参考文献】
1)不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究会「仕事と不妊治療の両立に関するアンケートPart2」結果報告2017年10月5 日NPO法人Fine
2)厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業 我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究 平成27年度総括・分担研究報告書ダイジェスト版