診療・治療
着床前スクリーニング(PGS)は染色体の数的異常の検出を目的に、海外では広く取り入れられており、①精液所見不良、②高齢妊娠、③着床不全、④反復流産、ならびに⑤卵巣予備能が低下している患者への適応が推奨されている(PGDIS conference 2016)。一方、わが国では技術の安全性、有効性などについて検討を行う臨床研究の段階とされている。このように、PGSを一般的な不妊治療の手法として用いるためには、倫理的な議論とは別に、技術の安全性確立が不可欠である。特に胚生検(biopsy)技術は診断を左右する重要な技術といえる。現在、biopsyを行う上で主流となっている方法は、レーザーを用いた手法であるが、同時にレーザーによる周辺細胞への影響も懸念される。そこで本検討では、安全で簡便なbiopsy法の技術確立を目的に、異なる2種のbiopsy法について比較検討を行ったので報告する。
研究使用に同意が得られた廃棄予定の凍結胚盤胞(Day5,G3BB≦)を対象に、融解後に孵化が認められた22個の胚盤胞を検討に用いた。検討群として、従来通りの方法で胚盤胞の孵化部分をレーザーによりbiopsyを行ったレーザー群、ならびにレーザーを使用せずに孵化部分を物理的に切り取ったメカニカル群の2群を用いた。次いで、各群から得られたbiopsy後の細胞(胚盤胞本体、およびbiopsyサンプル)に対し、細胞蛍光染色法を用いた死細胞の割合について比較検討を行った。なお、染色には細胞膜透過性を有するHoechst33342(青色;総細胞)、ならびに細胞膜透過性を有さないpropodium iodide(赤色;死細胞)を用いた。
Biopsy後の胚盤胞本体、ならびにbiopsyサンプル数は、レーザー群(n=10)ならびにメカニカル群(n=12)に差は認められなかった(72.5±15.6 vs 81.8±14.5、ならびに6.4±2.2 vs 2.5±1.4)。同様に、biopsy後の胚盤胞本体における死細胞の割合(6.9% vs 5.6%;p=0.68)、ならびにbiopsyサンプルにおける死細胞の割合(50.0% vs 42.1%;p=0.31)にそれぞれ差は認められなかった。
本検討結果から、レーザー法とメカニカル法によるbiopsyにおいて、胚盤胞本体あるいはbiopsyサンプルに対する細胞損傷の割合に差はないことが示された。メカニカル法はレーザーを使用する必要がないため、レーザーを所持していない施設でも胚盤胞期におけるbiopsyが可能になるのではないかと考えられた。今後、より詳細な検討を重ね、安全で簡便な技術の確立を目指していきたい。