英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

研究開発・学会発表

診療・治療

第17回 日本不妊カウンセリング学会

  • 当院における胚培養士外来
  • 2018年6月1日(金) ニッショーホール
  • 第17回 日本不妊カウンセリング学会
  • 古橋孝祐、岸加奈子、伊藤宏一、水澤友利、松本由紀子、苔口昭次、塩谷雅英

【はじめに】

実際の生殖医療の現場において、胚培養士が積極的に患者に情報を提供することは非常に有意義であると考えられるが、現在のところ生殖医療に携わるコメディカルの中においても、胚培養士が直接患者に接する機会は比較的少ないのが現状であると思われる。当院では、胚培養士が直接患者に情報提供できる場を設ける目的で、2011年6月に胚培養士外来を開設した。開設当初は、患者と接することに不慣れなこともあり、また患者がどのような情報をどの程度必要としているのかわからず戸惑うことも多かった。しかし、7年間にわたる胚培養士外来を通じて多くの患者と向き合うなかで、当院の胚培養士は多くの事を学びつつ、日々前進してきた。本講演では、この当院における胚培養士外来の現状を紹介する。

 

【胚培養士外来開設の3つの目的】

当院が胚培養士外来を開設した目的は次の3つである。第1の目的は、患者の配偶子・胚を取り扱う胚培養士がこれらの情報を直接患者に提示すること。医師や看護師、あるいはカウンセラーとはまた違った視点・立場から説明することでより生殖医療への患者理解が深まるものと考えている。第2の目的は、配偶子・胚を預けてくださる患者に接する事で患者との信頼関係をより強固にすること。第3の目的は、日々忙しく、かつ高度の緊張を強いられる胚培養室で勤務するなかで、忘れかねない配偶子・胚に込められた患者の思いを受け止めることで、胚培養士が受け持つ職務の責任の重さを自覚するとともに、胚培養のプロとしてのモチベーションを高めることである。開設時に掲げたこれら3つの目的は7年間の胚培養士外来の実践を通じて十分に達成されつつあると感じている。

 

 

【当院の胚培養士外来の運用方法】

上述の通り、2011年6月から胚培養士外来を開始した。当院で胚培養士外来を担当する胚培養士の要件は、①胚培養士としての知識、技術に十分に習熟していること、②治療に対する患者の思いを受け止める資質、能力が備わっていること、③生殖医療を取り巻く社会医学的環境を理解し、生命倫理に関して高い自覚をもっていること、である。当院では、胚培養士には3~4年間の教育プログラムを設けており、入職後はこのプログラムに沿ったトレーニングにより①から③の要件を身につけることになる。従って、現在当院で胚培養士外来を担当している胚培養士は実務経験を4年以上有する13名の胚培養士である。外来は毎日行っており、原則一日一組の予約枠で実施している。費用は、1回500円(税別)である。

外来での相談、説明内容として多いものは、①精液検査の方法と結果の解釈について、②体外受精、顕微授精の実際の方法、③受精方法の選択、体外受精か顕微授精か、あるいはスプリットか。④卵子、胚のグレード分類の方法と、実際に得られた卵子、胚のグレード、そこから予想される妊娠予後など、⑤精子、胚の凍結方法とその成績についてなどである。排卵誘発方法や普段の生活上の注意などの質問を受けることも頻繁にあるため、普段から国内外の学会に出席するなど、幅広い知識の習得に努めている。

 

【まとめ】

胚培養士外来では、高度な知識と技術を備えた胚培養士が、医師や看護師、あるいはカウンセラーとはまた違った視点・立場から治療内容を説明することで患者満足度の向上に寄与できていると考えている。同時に、胚培養士外来を通じて胚培養士は患者と向き合い、そして患者の思いを受け止める事で、胚培養のプロとしてのモチベーションを高めることにつながっている。

胚培養士外来は、前述のごとく一日一件の予約としており、患者が納得いくまで十分に時間をとる事のできる体制にしているが、いたずらに時間をかけても患者の理解は得られないであろう。胚培養士外来では患者の疑問、不安に対して自院が蓄積した治療データを解析した多くのデータに基づいた説得力のある情報を分かりやすく患者に提示することが重要である。また、反復不成功例など成果を得られず悩んでいる患者には、回答に苦慮するケースも少なくない。また、治療に伴うつらい心情を吐露されるケースもあるため、胚培養士だけで対応するのではなく、医師、看護師、カウンセラーとの連携を図ることが重要である。

今後はさらに胚培養士としての技術習得および知識の向上に努め、より満足度の高い胚培養士外来を行って行きたいと考えている。

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