はなぶさコラムス
当院理事長 塩谷雅英が毎日の診療の中、見えてきたこと、皆様に是非お伝えしたいことなどをつづったコラムです。
普段の診療で感じることですが、卵管に問題があって妊娠できない患者さんがとても多くいらっしゃいます。卵管は妊娠が成立するためにとても大切な働きをしています。卵巣から排卵される卵子をキャッチし、その後、精子と卵子が受精する場所となり、さらに受精卵を育むのも卵管の役割です。
このように大切な卵管ですが、とても繊細な構造をしており、そのためガラス細工のようにとても傷みやすいものです。卵管を調べる検査として最もよく行われているのは、子宮卵管造影検査(HSG)です。読んで字のごとく、卵管の影を造ってその影の状態で卵管を評価する検査であり、卵管そのものをみている検査ではありません。所詮影を見ているだけの検査ですから非常に不確かな検査と言えます。通っているか、詰まっているか、水腫と言って卵管にお水が貯まってふくらんでいるか—–、この程度はわかるのですが、先程述べました卵管の大切な役割をきちんと果たすことができる状態なのかどうかなど、細かいことはわかりません。
子宮卵管造影検査で、「卵管は大丈夫ですよ」という医師の診断は、「詰まってはいませんよ」ということであり、卵管が本来の働きをきちんとできているかどうかは疑わしいと考えた方が良いのです。視力検査に例えれば、「視力はありますね」と言われたのであって、視力が0.1なのか1.5なのかさっぱりわかっていないような状態なのです。
当院では少しでも卵管の状態を正確に調べるために、子宮卵管造影検査(HSG)には自動注入ポンプを使用し、造影剤の注入圧を測定しています。どれくらいの圧力で造影剤を注入したときにどれくらい卵管に造影剤がながれかきめ細かく検査することで、従来の卵管造影検査よりは遙かに正確に卵管の状態を診断できるようになりました。卵管に造影剤が通った時の注入圧を測定し、250mmHg以下の圧力で通っている場合を正常としています。例え、卵管に造影剤が通っても250mmHg以上の圧を必要とした場合には卵管狭窄(卵管が細い)と診断します。
また、当院では卵管を調べる検査として、子宮鏡検査を大切に考えています。子宮の中にファイバースコープを挿入しますと、卵管の入口の穴が左右1個ずつ見えます。この穴は、卵管子宮口と呼ばれ、卵管の始まりであり、まぎれもなく卵管の一部です。卵管に異常があれば、この卵管子宮口にも何らかの異常が見える場合が多いのです。卵管に異常がある場合、この卵管子宮口は細くなったり、癒着があったり、卵管の入口にポリープが出来ていたり、などの変化が観察されます。
このように当院では、注入圧を測定する精密な子宮卵管造影検査と子宮鏡検査を併用することで、卵管の異常の発見に努めています。前医で原因不明と診断され、治療方針が定まらないでいる患者さんでも、これらの検査を実施することで卵管の問題が見つかり、治療方針を明確にできる方は少なくありません。
院長 塩谷雅英