英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

胚培養スタッフより

はなぶさコラムス

当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。

着床前診断(PGD)ってなに?(2010年2月)

〜着床前診断(PGD)について〜

みなさまは着床前診断という言葉をきいたことがあるでしょうか?
着床前診断とは、受精卵の段階で(=着床前)、染色体および遺伝子の検査を行う(=診断)方法のことを言います。英語ではPreimplantation Genetic Diagnosisと訳されPGDと省略されることが多いです(以下、PGDと省略します)。PGDは遺伝性の病気や繰り返す流産を回避するために行う検査です。受精卵を対象とした検査のため、体外受精を必要とします。似ている技術で出生前診断(羊水検査や絨毛診断)という検査がありますが、これは妊娠した後にお腹の中のこどもに染色体や遺伝子の検査を行いますので、受精卵に行うPGDとは異なります。
今回のコラムでは、PGDの歴史や検査の対象となり得る症例、検査方法、メリットや問題点について解説します。

1.PGD実施に至るまでの歴史

PGDは1990年にイギリスで初めて行われ、現在では数多くの国で実施され、2005年までに2500人以上のこどもが誕生しています。顕微授精を行って初めてこどもが生まれたのが1992年ですから、実はPGDはそれほど新しい技術ではありません。日本では、安全性や有効性、病気に対する差別への観点から実施を見送っておりましたが、1998年に条件付きで実施することが認められました。その条件とは、実施する症例を限定すること、実施する施設を限定すること、上記2つの条件を満たした上で日本産科婦人科学会の審査承認を1症例ごとに受けること、の3点です。そのためPGDを行うためには、確かな技術と高度な遺伝学の知識、遺伝的問題へのサポートが必要不可欠となっています。

2.どんな場合に使えるの?
こどもに重篤な遺伝性の病気が伝わる可能性がある場合
遺伝性の疾患で、デュシャンヌ型筋ジストロフィーなど「成人に達するまでに日常生活を強く損なう症状が発現したり生存が危ぶまれる疾患」とされており、基準に該当するか否か学会で審査されています。
夫婦のどちらかおよび両方の染色体に相互転座があり、流産を繰り返している場合
相互転座とは、ヒトの体の設計図である染色体の一部が他の染色体の一部と入れ替わっている状態で、健康上は問題ないことがほとんどですが、妊娠後に流産を繰り返す可能性があります。

labo100203-1.jpg                       遺伝子を載せた体の設計図、染色体

labo100203-2.jpg3.検査の方法
まずは卵子と精子を体外に採り出して、体外受精および顕微授精を用いて受精させます。受精が起こった受精卵を培養して、8細胞程度まで分割した胚の割球(細胞)のうち1つを慎重に採り出し、その1つの割球を検査に使用し、胚はそのまま培養を続けます。採り出した割球にFISH(染色体検査法)あるいはPCR(遺伝子検査法)を行い、胚が正常であるかどうかを調べます。正常であった胚が胚盤胞まで成長したら、その胚を子宮内に移植します。

labo100203-3.jpg4.検査のメリット
遺伝性の病気を回避することができます。
遺伝する病気を回避することは最初にお話しした出生前診断でも可能ですが、出生前診断では中絶をしなければなりません。PGDでは胚をお腹に戻す前に検査を行うので、中絶をすることなく遺伝する病気の回避が可能です。
染色体転座による流産を繰り返す可能性を低くすることができます。
流産を繰り返すことによる精神的・肉体的なダメージは大きく、PGDを行うことで流産による負担を減らすことができる可能性があります。

5.問題点
不妊症でなくても体外受精が必要となります。体外受精の妊娠率は全国的に見ると30%程度です。そのため体外受精を行っても複数回の治療を必要とする場合があり、出産に至るまでには多額の費用と時間が必要となります。また、上でお話ししたように検査を実施するためには一例ごとに学会の承認を受けなければなりません。その背景には、PGDを行った後の長期的な影響について確認できていないこと、検査の正確性が100%ではないこと、正常でないと判断した受精卵を廃棄することが障害者への差別になるのではないかという意見があること、などが挙げられます。そのため、検査を希望されてから学会への申請・承認には半年〜1年程の時間がかかります。

labo100203-4.jpg難しくて少し長いお話でしたが、「私たちはこの検査を受けることができるの?」など疑問な点やご相談したいことがありましたら、気軽に日々の診察で医師に聞いてみて下さい。また当院では専門のカウンセラーによる遺伝カウンセリングも受け付けておりますのでぜひご利用下さい。

今冬は暖冬と言われていたのがウソのように寒い日が続いております。みなさま、お体にお気を付けてお過ごし下さい。

・当院におけるPGDの実績
当院は、2009年春に日本産科婦人科学会からPGD実施施設として認可を受け、これまでに相互転座を伴う習慣流産2症例に実施し、2症例を学会に申請中です(2010年1月15日現在)。
また、本技術を応用した研究を積極的に行っており、多くの学術集会で発表し論文投稿も行ってきました。詳しくは「当院の実績、学会発表・論文発表」の項目をご覧下さい。
私たちはこのPGDを発展途上の技術であるととらえ、これから少しでも治療の質を向上できるよう今後とも継続して研究を続けていく予定です。

胚培養部門 水田真平

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