はなぶさコラムス
当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。
当院では、体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の成績を比較すると、IVFの方がICSIよりも胚の発生が良好で、またより自然に近いため、精液所見が良好な患者様にはIVFをお勧めしています。しかし稀に精液所見が良好でも全く受精しないことがありますが、これらを事前に予測することは困難です。
IVFの場合、卵子に精子を振り掛けた(媒精<図Ⅰ>)数時間後、卵子に受精の兆候が見られます。成熟した卵子は、第一極体を放出した状態で成熟(減数分裂)を止めていますが、精子が侵入することで減数分裂を再開し、第二極体を放出します<図Ⅱ>。私たちは第二極体を確認することで受精の兆候を判断します。しかしながらその兆候が見られない卵子<図Ⅲ>もあり、その場合は受精障害が予測されます。IVFを行った後卵子の成熟は確認できるものの、一定数の卵子に受精の兆候が見られなかった場合、完全不受精を防ぐ目的でICSIを行います。そのことをレスキュー(rescue)ICSIと言います。簡単に言うと、正午頃に行ったIVFで受精が起きないと予測できる卵子には夜にICSIを行うということです。受精が全く起きないと、その周期はその後の治療もすべてキャンセルとなってしまうため、レスキュー ICSIは臨床的に有益であると考えられています。
しかし、受精した卵子に対してICSIを実施した場合、多精子受精卵ができる可能性もあるため、採卵日当日の夕方に受精の兆候の有無が判明しない場合にはレスキュー ICSIは行いません。通常のICSIと同様に未熟卵にもレスキュー ICSIは行いません。また、受精の兆候が確認できた場合でも、その翌日の受精や採卵後2日目の分割の確認ができないこともありますし、レスキュー ICSIを施行した場合でも受精卵を得られないこともあります。
<図Ⅰ> 媒精の様子
<図Ⅱ> 受精の兆候が確認できた卵子。
第二極体が見られる。
<図Ⅲ> 受精の兆候が確認できない卵子。
第二極体が見られない
当院でレスキュー ICSIをご提案させていただくのは
① ご主人様の原精液所見がIVF治療に適応であること
② 採卵当日の回収卵子数が4個以上であること
③ 採卵当日18時の時点で、成熟卵子あたりの受精の兆候が見られている卵子が30%未満であること
の3項目が当てはまる患者様が対象です。精液の状態で、ICSIやsplit(IVFとICSI両方)を行う方はレスキュー ICSIの対象にはなりません。
レスキュー ICSIの流れを示します<図Ⅳ>。
〈図Ⅳ〉当院のレスキュー ICSIの流れ
対象となる患者様には提案させていただいておりますが、ICSIに抵抗のある場合、また過去にIVFで高い受精率が得られているなどの理由により希望されない場合等は、通常のIVFのみを選択することも可能ですので外来でご相談ください。また、詳しい説明を培養士からご希望の患者様は採卵前に培養士外来を是非ご利用ください。
培養部門 副主任 角本知世