はなぶさコラムス
当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。
まず始めに、培養液は、卵子・精子・胚に直接影響を与え、その後の胚の発育はもちろん妊娠にまで影響を及ぼす体外受精において最も重要な因子の一つであり、必要不可欠なものと言えます。
次に、培養液の歴史についてのお話をさせていただきたいと思います。1985年Quinnにより、ヒト卵管液の成分を基に単純な組成の培養液が開発されました。これは、従来の複雑な組成の培養液に比べて品質管理が容易で安定した成績が得られたため、広く使用されるようになりました。1996年Gardnerらは、初期胚培養用と後期胚培養用で組成の異なる連続型培養液(Sequential Medium)を開発し、胚盤胞までの長期胚培養を可能にしました。これを契機に、胚盤胞までの培養が盛んになり、当時初期胚移植では20%代にとどまっていた妊娠率を胚盤胞移植により70%にまで引き上げました。
そもそも胚の代謝は8細胞期を境に変わり、それ以前と以後では必要な栄養素が異なります。8細胞期までの胚は、ピルビン酸と乳酸を用いてエネルギー代謝を行うのに対して8細胞期以後の胚はグルコースやアミノ酸を急激に取り込み、利用するように変化します。Sequential Mediumはこの様な胚の代謝を考慮し、stage specific(発育時期に特異的)な組成で培養を行うという考えの基で生まれました。これに対して、胚自身が必要な栄養素を選択・吸収し、利用するのではないかという考えの基で、受精以降一連した組成で培養を行う培養液も開発されました。当院では、数回に渡る検討の結果、現在後者を使用しています。当院の胚培養プロトコールを以下にお示し致します。
※培養液BからB’は同じ組成の培養液ですが一度培養液を交換しています。
現在、様々なメーカーから何種類もの培養液が開発・販売されていますが、今後もその開発は止まることが無いのではないかと予測されます。それは、体外受精にとって胚の培養液が重要であることを示しています。では何種類もの中からどうやって実際に使用する培養液を選べばよいのでしょうか?答えは使用してみる以外に無いと思います。当院では実際に使用してみて、より良い培養成績・妊娠率の得られた培養液をメインの培養液として使用しています。どの培養液が最も良好な成績を得られるかはクリニックにより異なります。それは、クリニックの培養環境が異なるためです。
最後に、当院の培養室では、患者様からお預かりしている胚をよりご妊娠に結びつく胚へと育てるために今後も培養液の検討を行っていきたいと考えています。一人でも多くの患者様が英を卒業され、無事ご出産されますよう、精一杯努めさせていただきたいと思います。
胚培養部門 角本知世