はなぶさコラムス
当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。
揺動培養と聞いてみなさんはどんな培養方法を想像しましたか?
難しく考える必要はありません。文字どおり、「培養Dishを揺らして受精卵を動かしながら培養する」方法です。
この揺動培養は岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の教授である成瀬恵治先生が発表されたTilting Embryo Culture System (TECS)という装置を用いて体外培養の環境をより体内の環境へと近づけようという試みです。
体内では卵管膨大部で受精がおこった受精卵は分裂を繰り返し胚盤胞まで成長しながら、子宮へと移動していきます。この受精卵の移動は卵管のぜん動運動により起こります。
つまり受精卵は卵管によって子宮へと運ばれるのです。
揺動培養はこの卵管内の受精卵の動きの一部を体外培養の培養Dishの中で再現して培養できる方法です。
通常の培養(図1)では、受精卵の入った培養Dishは培養器のなかに静置されています。
揺動培養(図2)では、培養器のなかで受精卵の入った培養Dishごとシーソーのような装置(TECS)にのせ、一定の間隔、時間で培養Dishを傾斜させます。
培養Dishを傾斜させることより、受精卵が傾斜面を移動し、卵管内での受精卵の動きに近づけることができます。
マウスやブタなどの動物種では、揺動培養によって胚盤胞の発生率が上昇したなどの報告があり、さらにヒトにおいても良好胚盤胞の発生率が上昇したという発表がされています。
以上の報告から揺動培養を行うことで胚発生の改善が期待できると考えております。
当院でも、過去3回以上採卵を行っている反復ART不成功例の方において良好胚盤胞の発生率が高くなる傾向が見られました(図3)。また妊娠率においても、揺動培養の方が、高くなる傾向が見られました。
胚盤胞への成長によい結果が得られていない方などに試みる価値のある培養方法と思われます。しかし、現状ではすべての方に有効かどうかははっきりと結論が出ていません。
どのような方に有効なのか、今後のさらなる検討が必要と考えます。
図1通常培養
図2揺動培養
図3 当院でのDay5胚盤胞発生率および良好胚盤胞率
胚培養部門 米山雅子