英ウィメンズクリニック

HANABUSA WOMEN'S CLINIC

胚培養スタッフより

はなぶさコラムス

当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。

受精卵(胚)凍結について(2009年10月)

妊娠の可能性を広げる受精卵(胚)凍結のお話

「受精卵(胚)凍結」は妊娠の可能性を広げる技術として、生殖補助医療に関わる技術の中でも特に重要であり、採卵を経験される多くの方は実際に胚凍結を行う事になると思います。そのため、今採卵されている方にも、これから採卵をひかえている方にもよく知って頂きたい技術の一つです。今回のコラムはこの「受精卵(胚)凍結」をテーマに進めさせて頂きたいと思います。

「受精卵(胚)凍結」の実際

1983年にオーストラリアで世界で初めて凍結しておいた受精卵からの妊娠例が報告されました。不妊でお悩みの患者様のみならず生殖補助医療に関わる我々医療関係者にとりましても画期的な出来事でした。ただし、当時の成功率はかなり低かったのですが、現在では様々な改良が加えられ、その成功率も飛躍的にたかまり、現在ではヒトの生殖補助医療技術の一つとして欠かすことの出来ない技術となっております。現在主流となりつつある凍結保存法は超急速ガラス化凍結法(Vitrification法)と呼ばれ、当院ではこの方法により患者様よりお預かりした大切な胚を凍結保存しています。凍結の際には耐凍剤と呼ばれる保護物質を凍結保存液に添加していますが、この種類と量が生存性に大きく影響します。胚は特殊な保存容器に載せられ、マイナス196℃の液体窒素に入れることで一気に冷却、凍結を行います。超急速ガラス化凍結法(Vitrification法)と言う名前は室温から-196℃まで冷却されるこのスピードが由来となっております。凍結した胚は完全に時間が止まった状態となり、理論的には半永久的な保存が可能であると言われています。また保存期間による影響もこれまで報告されておりません。

どの様な時に胚を凍結するのでしょうか

採卵を行った全ての方が胚を凍結するわけではありません。ではどの様な時に胚凍結をお勧めするのか、になりますが大きく分けて下の3つに当てはまる場合、胚凍結お勧めすることになります。

1 .余剰胚の凍結
一度の採卵で複数の胚が出来る事があります。移植する胚が1つの場合、移植しなかった胚は余る事になります。つまり採卵した周期で2個以上の胚が出来た場合、移植を予定しない胚、すなわち余剰胚が生じることなります。この余剰の胚を凍結すれば採卵周期で妊娠に至らなかった場合でも、胚を融解し再度移植を行う事が出来ます。また、妊娠にいたった場合には余剰胚を凍結保存しておくことで、二人目、三人目のお子さんを授かることが出来る可能性が広がります。

2 .卵巣過剰刺激症候群の発症が懸念される場合
採卵を行う前にhMGといった卵巣刺激ホルモンを注射する場合があります。このホルモンは卵を多く育てる働きがあり、特にロング法やショート法、アンタゴニスト法では連日投与となります。すると、採卵時に卵が多く回収出来ることがあるという利点もありますが、卵巣自体が注射の影響で腫れ、腹水が溜まったり、痛みがあったりする事もあります。そのような場合には、得られた胚を全て一旦凍結し、卵巣の腫れが治まってから移植を行います。このように腫れが治まってから移植を行うことは、妊娠率をたかめることにもつながることにもなります。

3 子宮内膜の状態による凍結
移植を行う際には子宮内膜の状態が大きなポイントの一つとなります。採卵周期では受精卵を受け取る子宮内膜の働きが十分ではなく、移植に最適な状態ではない事もあります。一旦胚を凍結し、子宮内膜が適度な状態で移植を行う方がよりよい結果に結び付く可能性があります。

以上が主な胚凍結をお勧めするパターンになります。但し近年では以下で説明させて頂く様に、胚凍結技術が飛躍的に進歩したため、特に2、あるいは3に少しだけ当てはまる様な場合でも、胚凍結をお勧めする事があります。患者様にとっては妊娠する機会が先延ばしになってしまうため非常に残念がられる方もいらっしゃいますが、結果的に出産への近道になる場合があります。

ではどれくらい安全に凍結できるのでしょうか

下に示す表は2008年に実際臨床の治療として行った成績になります。2008年度の1年間で当院では、凍結初期胚334個を融解しました。その結果、328個(98.2%)が長い眠りから覚め元気に回復しています。胚盤胞も同様で、融解した1283個の内、1244個(97.0%)が回復しました。

最後に

胚凍結は近年精度が非常に高まり、ほとんどの胚は生存したまま移植に用いることが出来ます。しかし、上述の通り、回復率は97〜98%であり、残念ながら100%の生存率というわけではありません。ごく一部ですが、胚凍結-融解の過程の中で生命力を失ってしまい、移植を行う事が出来なくなる場合もあります。こういった症例はごくわずかではありますが、回復率を100%に出来るよう、我々培養士は日々模索、研究しております。これらの研究の成果は各種の医学界にて報告しており最新の研究成果は、2009年9月に仙台で開催されました日本IVF学会にて報告して参りました。この報告の詳細につきましては、当院の活動にもアップしておりますので、興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。

今回は受精卵(胚)の凍結という、とても大切な技術についてお話させていただきました。長くなってしまいましたが最後までお付き合いくださり有り難う御座いました。

英ウィメンズクリニック
胚凍結部門 胚培養士 稲飯健太郎

表 凍結融解後の受精卵(胚)の生存率(英ウィメンズクリニック2008年)

 

初期胚

胚盤胞

融解周期数

257

1238

融解胚数

334

1283

生存胚数

32898.2%)

124497.0%)

 

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