採卵時に体外に採り出された卵は、最長6日間培養を行います。
受精卵は体外でのほとんどの時間を培養液の中で過ごすことになり、培養液の選択はとても重要です。
現在何種類も存在する培養液にはそれぞれ特徴があり、何を選択するかは施設によって異なります。
前回のコラム 【
培養液について(2010年3月)】
では培養液の歴史についてご説明させていただきました。今回は現在使用中の培養液についてお話したいと思います。
まず前回の復習になりますが、培養液は大きくシーケンシャルメディウムとシングルメディウムの2つに分けられます。
受精卵は発生のステージによって必要とされる栄養素が異なります。シーケンシャルメディウムはその点に注目し、初期胚、胚盤胞と時期によって組成の異なる培養液を使い分けるというものです。胚にとって必要な栄養素を必要なタイミングで提供できるというメリットがあります。
対してシングルメディウムは、胚が自ら必要な栄養素を取り込むという考えから、受精後同じ組成の培養液で培養することができます。環境の変化による受精卵へのストレスの軽減が期待できます。
当院では現在、後者のシングルメディウムを用いて受精卵の培養を行っていますが、同じシングルメディウムの中にも様々な種類が開発されています。
新しい培養液を使用する場合、それが当院の環境に合っているのかは使ってみるしかありません。実際に使用し、分割率、胚盤胞発生率、良好胚盤胞率などの項目を比較します。従来以上の成績が得られた場合にはメリット、デメリットなどを考慮した上で新しい培養液に変更するという方針を取っています。
次に当院で使用している培養液についてご説明します。
下記のグラフは近年行った培養液の検討結果です。Aは新しい培養液、Bは従来の培養液でどちらもシングルメディウムです。
4か月間使用して培養成績を比較したところ、AはBと比べてグレードの良好な胚盤胞の発生率が高いという結果になりました。
以上の結果から、昨年BからAの培養液に変更しています。当院では、このような検討を重ねた上でより良い成績の得られた培養液を第一選択としていますが、すべての患者様に最適であるとは限りません。複数回の培養で分割のスピードがいつもゆっくりである、胚盤胞に成長しにくいといった場合、培養液の変更も一つの手段になります。
また、当院では第二の培養液として系統の異なるシーケンシャルメディウムも準備しているため、ご希望があれば第二の培養液を選択していただくことも可能です。これで全ての問題が解決するわけではありませんが、患者様のご負担なく、またより簡単な方法で培養方法を変更することができます。
ご不明な点などありましたら培養士外来をご利用ください。
培養部門 阿部礼奈