はなぶさコラムス
当院胚培養スタッフからお届けするコラムです。一般の治療ではなかなか見えにくい部分をお届けしています。
患者様からお預かりした受精卵(胚)をそのまま凍結しようとすると、周りの水分や受精卵の細胞の90%を占める内部の水分が針のような氷(氷昌)になり細胞を傷つけてしまいます。こで、受精卵を移植まで保管するために凍結する場合は、矛盾しているようですが水分が氷にならないように凍結する必要があります。
この矛盾を解決するために現在主流で用いられている方法が超急速ガラス化法(vitrification法)です。
超急速ガラス化法は専用の凍結液を用いて、常温下で脱水を行った後に一瞬のうちに水分が凍れないまま動きが止まった状態(ガラス化)にする方法となります。ガラス化された凍結液と受精卵は液体のまま動きが止まった状態となり、液体窒素の中で保存することにより半永久的に保管が可能であるといわれています。
・スクロース・・・ いわゆるショ糖です。スクロースは細胞膜を通過できないため、凍結液の浸透圧を高くして受精卵の内部の水分を脱水しやすくする事を目的に加えています。
・エチレングリコール・・・ 細胞膜を透過する性質を持ち、受精卵の中の水分と入れ替わることで受精卵の中にある水分を追い出すために加えています。
・DMSO・・・ エチレングリコール同様に、細胞膜を通過する性質を持ち、受精卵の中にある水分を追い出す目的で加えています。また、水分を吸着する働きがあり受精卵の中にある残った水分を吸着し脱水をより確実にする働きがあります。
融解する際には迅速に凍結液の成分を取り除く必要があります。
そこで、凍結液より浸透圧が高くなるように調整した培養液にスクロースのみを加えた融解液を用い、受精卵の中の凍結保護剤(エチレングリコールとDMSO)を融解液に置き換えます。その後、培養液に移し替え受精卵の活動を再開させて移植等に備えます。また、浸透圧の高い融解液から浸透圧の低い培養液に移す際は、徐々に浸透圧を下げる作業を行わないと急激に水分が受精卵の中に流れ込み、ダメージを与えてしまいます。
この流入を防ぐために一般的に3段階で融解液を移し替え融解していきます。当院ではより浸透圧のダメージを抑えるために、6段階で融解液を移し替える事により、一般的な方法よりさらにゆっくりと受精卵を浸透圧の変化に馴らして融解を行っています。
超急速ガラス化凍結法はヒトの受精卵に用いられるようになってから15年以上が経ちます。しかしながら、凍結融解液の成分はあまり大きく変わっていません。それは高い生存性と作業の効率性を高い次元で持ち合わせている方法であるからと考えられます。
しかし、凍結融解後の生存率は100%では未だありません。生存率をより高めるため当院も含め病院や大学、研究機関で日々研究が行われており、より良い方法を模索し患者様の治療の一助になるように努力を行っています。